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次に動きがあったのはそれから一週間後だった。長く開いたことで、千佳は警戒を強くしていた。余程の体制を整えてくるのだろう。たぶん人数だろう。それから、縄張りやらなんやらの調整だろう―あちらの世界のことはよくわからないけれど。「ウチのシマでどうこう…」なんて、よくドラマである、あんな感じ。囲まれたわね、と、ラインが言った。あらどうしましょう、と、千佳が棒読み気味で言った。そして鍵を掛けて電気を消し、窓を開けずにするすると外へ出た。それから天井に上り、ふわりと浮かび上がった。そして、わあ、と驚いた声を上げた。
「三十人くらいは居るわね。」
ちょっと滑稽だわね、とライン。
「まあでも、カンはいいほうだなと言わざるを得ないわね。一週間もかかるわけだわ。」
そうね、と千佳。
「けれど、時間がかかった分、こちらにも策を練る余裕があったってことよ―百人来たところで結果は変わらないしね。」
おおこわ、と、ラインがおどける。責任取りなさい、と千佳。それから、アパートを取り囲む巨大な円の外側に降り、口笛を吹く。数人がこちらを向き、目を凝らすような素振りをする。それからがちゃがちゃとして、そいつらを先頭に巨大な波が千佳の居る方へと動き始める。いやあ、なんていうか…、彼らが見失わないように気をつけて走りながら、千佳は呟く。
「本当楽しいわ、最近。」
そりゃよかった、とライン。けれど、ラインもうきうきしているのが千佳には感じられた。
二人は、先週の内に目をつけておいた四階建ての、横広な巨大な病院の廃墟へと飛び込んだ。そして天井に張り付き、四階までを一気に移動した。
「さあ…ゲームの始まりです。」
四階のすべてに糸を張り巡らせる。糸にかかった順番に薙ぎ倒す、五人ほど倒した時点で誰も上がって来なくなった。
「なかなか慎重ね。」
千佳は姿を消し、足音を立てぬよう、天井と床の間を飛びながら三階まで降りる。すべての階段の下に一人ずつ配置されていた。様子を見に降りてきたところを…という魂胆のようだ。
(なかなかいいわ。でも、甘いわね。)
音を立てないように、糸を首に巻き付け、一気に釣り上げた。喉が絞まる時の独特の声と、首の骨が折れる音がユニゾンで聞こえた。両端の二人も同じように始末した。
階段と階段の間の廊下に一人ずつ配置された連中が、異変を感じて動き出し、死体を見つけて騒ぐ。その声で大体の位置を把握した千佳は、毒をたっぷりと含ませた鱗粉をたっぷりと泳がせる。程なく呻き声が聞こえ、倒れる音がした。千佳は成果を見に近付いた。数人が浮腫塗れになって死んでいた。
「これ、使えるわ。」
「あなた、どんどん器用になるわね。」
ラインが苦笑交じりで言う。
「わたし、向いてるみたいよ、こういうの。」
「闘いが?それとも、殺しが?」
「全部よ。」
千佳は擬態を解く。
「ここからは派手に行きましょう。」
「理由を伺ってもよろしいかしら?」
「今までは下っ端でしょ。ここからは力を誇示しながら戦う必要があるの。今後の為にね。」
「…またなんか変なこと考えてるわね。」
ちょっと、と千佳は異を唱える。
「変なことばっかり考えてるみたいに言わないで。」
あはは、と、ラインは思わず笑う。ほんと面白いわ、この子。
千佳は三階の階段を、特に警戒することなく降りた。一人が銃を持って飛び込んできたが、千佳の右腕が巨大なムカデになっているのを見て一瞬ひるんだ。が、すぐさま態勢を立て直し、千佳に向けて一発撃った。けれど、なんの役にも立たなかった。ムカデの牙が額に突き刺さる。悶え苦しみながら男は死んでいった。おおっ、と、銃声を聞いて駆け付けた男たちが驚きの声を上げる。千佳は、ムカデの頭だけをカミキリムシのものに変え、鞭のように振るう。前列に居た数人があっという間に倒れる。化物だ、と、後列の連中が叫び、逃げようとする。失礼ね、と千佳は軽口をききながら毒の鱗粉を放つ。二階に居た敵はそれであと一人となった。そいつはマシンガンのようなものを持っていた。渡されたとき、こんなものが本当に必要なのか、と、訝ったそれの引金を狂ったように引いていた。弾はあちこちを穴だらけにしたが、千佳には傷ひとつつけることが出来なかった。残念でした。千佳はそう言いながら男の目を潰し、そのまま頭部を切り落とした。
千佳を尾行した男は、階上から聞こえる音に、自分たちの敗北を確信していた。なぜこんなことになるんだ、あんな娘一人に俺たちは全滅させられるのか?
そして、二階の物音が止み、誰かが背後の階段を降りてくる音がした。




