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ロイ視点になります
荒々しく部屋から追い出され、外に待機していたルイザ付きの侍女のレイが冷たい目で俺を待ち構えていた。
「…ロイ様、お帰りになられる様でしたら休憩している御者を呼んで馬車を玄関に着かせますが」
さっさと帰れと言わんばかりだ。
確かに何時もの俺ならば用件が終わり次第すぐに帰る。しかし、今日はこのまま帰れない。
ルイザが初めて俺に泣きそうな顔で怒鳴り、部屋から追い出した。淑女の仮面を脱ぎ捨てた、ルイザの本当の姿。
それに、えもしれぬ充足感を得る。
しかし、共に部屋に入った際に俺が来たと気づかないくらい楽しそうな笑顔で何か言いながら夢中で、紙に字を綴っていた。あんなに楽しそうなルイザは幼い頃以来だ。しかもその後に
〈…っ私の、私のロイ様はっ、あなたみたいに酷い言葉や態度は出しませんわ!〉
などと言っていた。
俺と同じ名前の男に恋文でも書いていたのだろうか。
しかも、大人しいルイザが【私の】と独占欲を仄めかすくらいの熱愛。
今迄感じたことが無いくらいの怒りと焦りが先程感じた充足感を打ち消す。
嫌だ。
嫌だ。
ルイザが他の男に夢中になるなんて。
ルイザは婚約者である俺のものだ。
俺だけを見ていればいい。
ルイザに男が寄り付かないように夜会ではずっと傍にいて牽制していたのに、何時邪魔な虫がついたのか。
ルイザの全て、ルイザの感情全て俺に向けられていないと嫌だ。
ルイザは俺のだ
婚約破棄なんて許さない
♢♢♢♢♢
ルイザは婚約したての幼い頃は、よく歯を見せて笑う子だった。大人しい性格なのに意外と外で遊ぶのが好きで、あの頃は一緒にかけっこをしたり、蝶を採ったり、庭で昼寝をしたりとなかなか楽しい日々だった。
しかし、1年後ルイザの淑女教育が本格的に始まると外遊びなど出来なくなった。
何より、ルイザの満面の笑顔が見れなくなってしまったのが俺の中ではショックだった。淑女の仮面を被った彼女は感情の全てを微笑みの奥に隠す。
そして、成長した自分の体格が俺と同じくらいになったのを気にしてしまい、それを隠すような目立たない地味な色合いのドレスを纏うようになっていった。
それらが気に入らなかった。
イライラした。
最初は笑ってほしかった。あの頃のように。
だが、俺はやり方がわからなかった。
流行りのドレスや化粧品を贈っても当たり障りのないお礼の手紙や言葉。
俺の機嫌を伺うような素振り。
またそれにイライラする。
イライラするから会う回数を減らしたが、会わなければ会わないで彼女のことを考えてしまう。
会えば冷たい態度や言葉が出てしまう。
いつしか笑顔は諦めた。
その代わり彼女の悲しい顔を見るとほんの少しだけイライラは消える様に。
どんな感情でも良いからルイザから向けられる、本物の感情が欲しかった。
ルイザに女らしくない、可愛げがないと言っているが、他に女は作っていない。
興味がない。
ルイザに構って欲しいから、俺の言葉で感情を揺らして欲しくてあんな酷い言葉を使う。
ルイザしか俺は見ていない。
♢♢♢♢
「…レイ、別室に案内してくれ。少し頭を冷やす」
怒りや焦りで我を失い、今迄より酷い言葉を投げかけそうだったので、レイに空いてる部屋で休憩したいと告げる。
「…失礼ですが、お嬢様はもうお会いにならないかと…。日を改められては?そうすれば、お互いに気持ちの整理もつけれるでしょう」
「いや、帰らない。帰れば、ルイザは婚約破棄を進める為に双方の両親の説得を始めるだろう。だから、話すのなら今日中で無ければ」
「…今迄、お嬢様を苦しめてきたのに…。何故、お嬢様を自由にして下さらないのです?」
声を震わせながら、されども涙を見せず毅然とレイはそう言い放つ。
昔からルイザの傍にいたレイにそう言われてしまえば、反論できない。
しかし、彼女の言う通りだ。
俺は彼女を傷つけてきた。悲しませ苦しませてきた。
子供みたいな理由で。
ルイザに会った日はいつも傷つけた事に罪悪感を感じていた。
でも会えば、どうしても冷たい態度や言葉しか出てこない。
それでも、傲慢だと、最低だと糾弾されようともルイザを手離したくないのだ。
「ルイザしかいらないんだ俺は。他の女性はいらない」
「…まるでお嬢様が好き、であるような発言ですね」
好き
その言葉がすとんと胸の中に落ちてきた。
そうか、俺はルイザが好きなのか
初めて知った
「…好き、なんだろうな」
「は?」
「…ルイザに甘えて自分の感情をぶつけていた理由が…好きだから、なんて…レイに言われて気づいたよ」
普通なら好きな人の幸せを考えて、最低な事をしていた自分から解放してやるのだろう。
それは出来ない。
ルイザが俺以外のものになるのは無理だ。
なんと愚かな男。
それでもルイザが、ルイザの全てが欲しい




