表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
5/5

5

声を荒らげロイを部屋から追い出し、自分の気持ちを落ち着けるために妄想日記を読み直す。何冊か読み終わった頃には大分冷静さを取り戻しており、先程自分が言ってしまった言葉に頭を抱えた。


勢い余って婚約破棄をすると言ってしまったし、妄想のロイについても言及してしまった。

婚約破棄はもう腹を括り両親に頼みこもう。これで瑕疵がつきまともな縁談を望めなくても仕方ない。かなり歳上の貴族男性の後妻でも良い。相手が優しく私を大事にしてくれる人なら、誰だって。


問題は妄想のロイについてだ。

絶対、自分と同じ名前の別の男性と密かに恋人になっていてそれに夢中だと思われた。

私が逆の立場ならそう思う。

実際のロイとは真逆の人物なので、ある意味別人だろう。私の理想のロイ。


婚約破棄をするなら後ぐされなく、できるだけ円満にしたい。それなのに誤解を招く発言をするとは…。感情的になりすぎた。


深く息を吐く。

気分転換をしよう。

レイに紅茶を淹れて貰い、愚痴をきいてもらおうか。

ロイが私の部屋に来たのならば、レイは部屋の外で待機しているか帰宅するロイの見送りにでも行っているかも。

とりあえずレイを探そう。


ドアノブを掴み、ゆっくりと扉を開ける。

扉を開けたすぐそこに、今にも泣き出しそうなロイが立っていた。


「…ロイ、様?」


とっくに帰ったと思っていた。

私の淑女に有るまじき感情的な発言、殿方を無理矢理部屋から追い出した事に怒り心頭で帰ったのかとばかり。

しかも、泣きそうな彼は初めてみた。

いつも機嫌が悪そうな顔ばかりだったから。それ以外の表情も出来るのだなと、驚いた。


「…気分は落ち着いたか?」


正直あなたがいなければ。



ロイの顔を見て先程の事を思い出し眉を寄せる。


「…もう少し話をしたい。部屋に入っても構わないか?」


話すことなんて。

感情的になってしまったがあれは本音だ。

互いの為に婚約破棄をした方が良い。

私はロイの冷たい態度や言葉に傷付かずに済むし、ロイは好みの女性と新たに婚約する事ができる。

1度気持ちを吐き出したら、今迄このままの状態で結婚して白い結婚のままロイに愛されず家の事だけに全てを捧げると諦めていたのが、婚約破棄をしてロイから離れる方に気持ちが傾いたのだ。


だが、珍しく部屋に入る許可を取ろうとする泣きそうな彼に、私は帰れとも言えなくなり部屋に入れる事に。その際にロイの後ろに立っていたレイはかなり冷たい目でロイを睨んでいた。



「…まずは、先程の無礼な態度をお詫び致します。私の我儘であなたを困らせてしまいました」


ロイをソファに座らせると、私は彼の前に立ち頭を下げる。

一応の謝罪。

本心はまったく悪いとは思っていないが。


「いや、お前が謝る事はない。あれは俺が悪い。…今迄お前が耐えていたものが我慢できなくなって、出た言葉だろう。俺はずっとお前に対して酷い男だったから…よく、今迄我慢してきたな。辛かったよな」


は?



「…だが、ルイザからやっと本音が出て、感情をぶつけて貰えたのは嬉しかった。…今更こんな事を言っても信用できないと思うが、伝えておく。俺はルイザが好き、だ。恥ずかしながら、さっき気付いた」


は?

彼は何を言っている?

私が、好き?

本音が聞けて嬉しい?



「俺は知り合ったばかりの頃の、楽しそうによく笑うルイザが、淑女教育を経て作りものめいた微笑みを浮かべ自分の感情を出さなくなったのが寂しくて、嫌で、距離を感じてずっとイライラしていた。自分でも制御できないイライラは、お前が俺に対して何かしら感情を見せたら落ち着いた。それが、悲しみ、だった。自分でも最低だと解ってはいた。でもお前を見ると勝手にこの口は酷い言葉を吐く。だから会う回数を減らした。でも、会わなくてもずっと頭の中はお前の事ばかり。これが、なんの感情なのかずっと解らなかった。こんな執着じみた感情…。だが、さっきレイと話して、これが恋なのだと理解した」


嘘くさい。

信じられない。

普通、好きな人にあんな冷たい態度や言葉を何年も続けるか?

何故今更そんな事を言うのか。


また大きな声を出して感情のままに言葉を吐き出してしまいそうで、強く拳を握り唇を噛み耐える。



「今更好きになってくれなんて、言わない。無理だってわかってる。でも、婚約破棄だけはしないでくれ。俺はお前しか妻にしたくないんだ。……嫌っても憎んでても良い。俺と同じ名前のお前の愛する恋人を傍に置いてても良い。…めちゃくちゃ嫌だけどな。でも、ルイザと会えなくなる方が嫌だ」



自分が私にしてきた事を本当にわかっているのか。

反省してるなら、その誠意として婚約破棄して欲しい。


でも、私に対してそんなに執着している事が分かり嬉しい、だなんて…そんな風に思う私が1番腹が立つ。


私にも非はある。

冷たい態度や言葉が怖くて、理不尽な事を言われても毅然と対応せず、すぐに謝ってしまっていた。

逃げることばかりを考えていた。


「…1度で良い。俺にチャンスをくれ。…頼むっ…!」


座ったまま私に頭を下げる。

あの彼が私に初めて頭を下げた。

…今日は珍しいことだらけだ。

こんな事ならもっと早くに婚約破棄について話していれば、私が妄想日記のロイに夢中にならずに済んだのかもしれない。



「…わかりました。では、1度だけ機会を差し上げます。そうですね…、ロイ様には私の理想の男性を2年だけ演じて頂きます。勿論、2人の時だけで結構ですが、その役をきちんと演じれない、嫌そうな態度や言葉を発したら…即婚約破棄致します。…さあ、ロイ様?この条件受け入れますか?」


扇を取り出し口元を隠しながらにっこりと微笑む。



本当ならもっと年数を上げても良かったが、それだといざ、婚約破棄になった時に私の次の嫁ぎ先が見つからない場合がある為、2年とした。

チャンスを与えたのは、私にも非があるので一方的にこのまま婚約破棄をするのは如何かと思ったからだ。

それに…どうせなら私の理想を本物に演じて欲しいという少し邪な心が動いたのもある。



「…ああ、受け入れる」


即答だった。


「その言葉お忘れなき様…。では、早速ロイ様に演じて頂く私の理想像について…。これは、私の口からお話するより実際に読んで頂いた方が理解しやすいですわね。…少々お待ちを」


ソファから少し離れ、自分の机の上に置いてある先程読み直していた妄想日記達を手に取り、ロイの元へ。

これをロイに読ませるのは恥ずかしい。かなり、恥ずかしいが…演じて貰えるのなら背に腹はかえられぬ。


「…これを」


座っているロイの目の前にあるテーブルに日記達を置く。


「…これは?」


1冊手に取り中身をパラリと開き、読み始めるロイ。

すぐにその手が止まる。

それを見て私は説明を口にした。


「こちらは、私のストレス解消法である妄想日記です。あなたに今迄言われた言葉などを、理想のあなたを妄想し置き換えて日記をしたためています。ロイ様には、こちらの日記の私の理想のロイ様を演じて頂きますが…止められますか?私にも無理をさせたくはありませんし、嫌でしたら言って頂いて構いま」


「やる。…ルイザの理想になれる様頑張るさ。それに、『私のロイ』は…この日記の俺なんだな。…他人では無く、俺を理想の相手として日記に書いていてくれるなんて…ちょっと嬉しい」


お前が恋人を作ってなくて良かった。


少し安心したように笑うロイに、胸がざわつく。


「…あくまで、お名前と容姿を借りただけの別人ですわ。今のあなたとは全く違う…」


これはいけないと可愛げのない言葉を言ってしまったが、彼は怒らず、ただその笑みのまま渡しを見つめていた。


「…言っただろう?お前の理想になれる様に頑張ると。…お茶会の件だが。中止にしないでくれないか?…会いたい」



その言葉にグッと言葉に詰まり、ただ私は頷いてそれを了承した。


ま、まあ、会う時に少しでもボロが出ればすぐに婚約破棄をすれば良いので、別に良いだろう。

本物が演じる理想の男性。

楽しみにならない訳がないっ。

ちょっと会う頻度をあげても良いかもとか、シチュエーションも考えて、一緒に出掛けたりとかもありかもとか、別に思っていない。




そう言えば…

妄想日記の事、中身を読んだ筈なのにロイは一度も引いたり嫌な顔はしなかったな

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ