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【見せたいものがあるとロイ様は私を連れ出し、街から少し離れた場所にある小高い丘へ。馬車から降りると、辺り1面白百合が咲き誇っていました。太陽の光が降り注ぎ、白百合達がいつもより1層美しく、輝いて見えました。私があまりの美しさに声を出せずにいると、ロイ様は『…どうかな?気に入ってもらえたかな?』何も言葉に出来ない私に少し不安そうでした。

『素晴らし過ぎて…人というのは、本当に美しいものを見ると言葉が出なくなると言いますが、まさにその通りです。…素敵な景色をありがとうございます、ロイ様』

『良かった!馬で遠駆けしてる時に見つけてね。君が好きな花だったから、見せたくて』

照れた様にはにかみながらロイ様は、私の手を取るとその甲にそっと口付けました。】


「いいわ!いいわ!なんって、ロマンチックなシチュエーション!書いてる自分でさえ、胸がときめくわ!」


今日も妄想日記に熱が入る。

熱が入り過ぎて思わず声を出しながら書いてしまっているが、今は私以外誰もいないので気にしない。


そう、熱が入り過ぎていたのだ。

ノックの音や、レイの声も聞こえていない程に。



「…何をぶつぶつ言いながら書いてるんだ?気味が悪いぞ」


不機嫌そうなよく聞いた事がある声が、私の耳に入ったかと思えば誰かが手元を覗き込もうとする影に気づき、勢いよく日記を閉じた。



ああ、インクが乾いていない内に閉じてしまった。これでは折角書いた内容が、後で読みかえせない…。


心中で嘆きながら部屋に入ってきた人物に内容が見られていないかと不安になるが、その事を悟られぬ様にゆっくり椅子から立ち上がり、淑女の仮面たる微笑みを作りその人と向き合う。


「…ロイ様、お出迎えもせず申し訳ありませんわ。あまりに突然でしたので、部屋着のままでお会いする無礼をお許し下さい」


「別にお前が何を着てようと変わらないし、興味がない。すぐに帰るからな。…先触れを出さずに来たのは礼を失するが…この間届いた手紙について聞きたくてな」


手紙。次回の定期茶会について、そう言えば出していたな。


「…その前に、部屋の外から何度もノックや声掛けしても反応しないくらい夢中になって、何を書いていた」


「……ただの、日記ですわ」


「…日記は夜に書くものでは?今は昼間だぞ」


「私、夜になるとすぐに眠くなるので書きたい事があった時はすぐに書くようにしているのです。…私の話よりも、ロイ様のご用件ですわ。手紙、の事ですが…何かありましたか?」



いつもなら私のしている事など微塵も興味がなく、自分の用を優先するのに今日に限って日記について質問してくる。

あまり答えたくないので、少し強引に話を変えた。これ以上聞いてくるなと心の中で強く願いながら。





「…そう、だな。お前からの手紙についてだが…」


若干不服そうな顔をされたが、早く帰りたいのだろうすんなりと用件に入っていく。

それに安堵した。

良かった、これでもう日記に話題はいかないだろう。


「2、3ヶ月定期的に行っていた茶会をしないとはどういう事だ?」


手紙にした通りだ。

来月から他国から仕入れた恋愛小説がたくさん届く。それを読む為にあまり得意では無かった外国語を再度勉強しようと家庭教師まで手配済み。勉強と小説を読むのに集中したい。

元々1ヶ月に1回の茶会。数回無くても問題ないだろうと思って、詫びの手紙を送ったのだ。



「2、3回だけお休みをさせて頂きたいだけです。少々私用で忙しくなるので、ロイ様の希望する日にお茶会を開催できるか分からないのが心苦しいので…」


申し訳ないが、すぐに終わる形だけの茶会よりこちらの方が私的に優先度が高い。

良いではないか、たったの2、3回なくても。

一口も茶や、お茶菓子を食べずに帰る時が殆どのくせに。



「何故お前の希望を俺がきかねばならない。3回もお前に会わないとなると、母上がうるさい。俺は全く会いたくないのだが、一応婚約者だから親しいと周囲に示さねばならない。それを領地に戻るや、社交シーズンで忙しいという訳でもないのに会わないとなると、不仲を疑われる」


不仲だといっその事周りに知らしめたら良いのに。そうしたら、私と婚約破棄でもして彼好みの可愛らしい女性と婚約すれば良い。


そうしたら、私も意味もなく嫌われ暴言を吐かれなくて済む。

そうしたら、何時までも昔の淡い初恋を引きずらずに済む。


ええ、そう。私は彼と婚約した最初の頃に恋をした。初恋を。しかし、歳を取る毎に酷くなる彼の態度に無惨にもその恋は破れた。でも、諦めが悪い私はその破れた恋の欠片を…初めて彼がくれた白百合の刺繍が入ったリボンをずっと大事にしている。



「……婚約者の我儘をたまにはきいて頂けませんか?」


「はっ、無理だ。一応婚約者だが、お前の我儘や願いなんぞきいてやる気がない。可愛らしく可憐な女性ならきいたかもしれないが」



何時もなら、そう何時もなら、私は諦めてすぐにロイに謝罪をして彼の機嫌を取る。

しかし、私が初めてした我儘を雑に切り捨てる彼の対応に腹が立った。

一応でも少しくらいは、私の我儘をきいて欲しかった。会わない方が自分だって良いくせに、世間体や両親の目を気にする器が小さい男。


私はあなたのストレスの捌け口ではない




「でしたら、婚約破棄致しましょう!!私だってあなたに会うのが苦痛でしたわ!そんなに世間体などを気になさるのでしたら、私との婚約を破棄してロイ様好みの女性と婚約したら如何です!…っ私の、私のロイ様はっ、あなたみたいに酷い言葉や態度は出しませんわ!」



怒りや悲しみ、長年の鬱憤などいろんな感情が混ざり合い、私は爆発した。

淑女にあるまじき大声を出して、唖然とした顔をしているロイを部屋から追い出した。

あまりに頭に血がのぼっていたので、この時余計な事を口走っていたのを気づけないでいた。

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