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今回ロイは出ません
妄想日記を半年も続ければ本物の彼に会わなくても、妄想の中の彼が頭の中で勝手に私に話しかけてくれる。その度に忘れないようにと、日記に慌てて書くのだ。
自分の中のロイを更に素敵な男性に、どんな場面でも妄想できるようにと、最近では色んな内容の恋愛小説を取り寄せては読みふけっている。本の中の恋模様は、私が想像するよりずっと素晴らしい世界で妄想の糧にする為に読んでいたのが、今では妄想日記と同じくらい癒しを貰っている。ちなみに私は身分差で両片思いの末のハッピーエンドが特に好きだ。
「ルイザお嬢様は最近毎日楽しそうですね、何かあったのですか?」
日課のティータイム。
私がゆっくり味わう様に、本日のお茶菓子である無花果のタルトを食べている。
レイは空になったティーカップに紅茶を淹れながら、そう聞いてきた。
幼い頃から傍にいて、一緒に育ってきた家族の様なレイ。両親に怒られた時や怖くて寝付けない時は一緒に寝たり、遊び相手をしてくれたり、家族には言えない婚約者のロイの愚痴も言ったり…一緒になって悲しんで私よりも私の為に怒ってくれる、優しい人。
しかし、そんなレイでも妄想日記の事は言えない。自分でも傍から見れば私がしている事は異常だとわかる。本当のロイを妄想の彼で上書きしているのだから。
でも、止められない。
「お嬢様は昔から色んな本を読まれるのがお好きでしたが、最近は特に熱心に読まれていてしかも、幸せそうに楽しそうに読まれるので気になって…」
「ええ、最近恋愛小説に夢中になってるの。物語というのは素晴らしいわね。読んでいる間は現実を思わず忘れてしまうわ。好きな作家様も出来て、今日その方の新刊が届いたから読むのが楽しみだわ」
妄想日記の事は伏せて恋愛小説に夢中になっていると説明した。嘘は言っていない。
物語にでてくる色んなシチュエーションや甘い台詞などを日記にも使わせて貰っているが。恋愛小説自体も楽しんでいる。
「…ルイザお嬢様…。現実でも…物語と同じような恋は無理でも、お嬢様を優しく暖かく包み込み、幸せにしてくれる殿方が婚約者でしたら…」
「レイ」
「いずれ…。いえ、ロイ様から結婚したいと申し入れがあればすぐに結婚できる様に旦那様のご指示で数年前から結婚支度はしております。婚礼用のドレスは申し入れが来てから準備は致しますが…。しかし、私はあの方に嫁いでもルイザお嬢様が不幸にしかならないとっ!」
ロイは私以外には感情をあまり出さず優しく微笑み紳士的に対応する。
なので私の両親は、ロイが私に対する態度を知らない。私は小さい頃一度だけ相談したが、両親は『好かれるようにお前が努力しなさい。化粧や流行を覚えたりすれば、きっと大丈夫だ』なんて言われたので、それ以来相談せずに我慢していた。両親もまさかロイが私に対して酷い言葉を投げかけているなんて思いもしないのだろうが。
「…あなたの気持ちは嬉しいわ。あの方もね、最初の内は今より優しかったの。言葉は辛辣だったけども、婚約して最初の私の誕生日。1回しか話した事が無かった私の好きな花…、白百合の刺繍が施されたリボンを贈って下さった。今でもあれは大事に閉まって、時折眺めているのよ」
私を思って贈ってくれたプレゼント。少し顔を赤くしてぶっきらぼうに『…誕生日おめでとう』と告げて渡してくれた、心がこもった祝いの品。その1回きりだ。
あとは流行りのものをただ贈ってくるだけの、祝いの言葉さえ、メッセージさえない味気ない誕生日プレゼント。
「私ね、嫁いで暫くしたら別居しようと考えてるのよ。毎日嫌いな私の顔を見るなんてロイ様には苦痛でしょうし。私も悲しい思いを毎日したくない。勿論、彼の妻として家の管理はしっかりやるわ」
別居したらすぐに妄想日記新婚編を書かないと。
「…お嬢様っ…!ご安心下さい!レイがずっとお傍におります…!私に出来る範囲でお嬢様をお守りお支え致します!」
涙を浮かべそう誓うレイ。
その言葉を純粋に嬉しく思う。レイが傍にいてくれるなら嫁いでも頑張って生活できる気がする。
その一方で脳内で、レイの言った言葉を妄想のロイに言われたいと思い脳内変換していた。
『ルイザ、これから先ずっと君の傍で君を守らせて欲しい』
良いっ!
ああ、ティータイムが終わり1人になったらすぐに書かねば。




