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「少しは女らしくしたらどうだ」
その一言は、私の胸へ突き刺さった。
よく言われている言葉だが、何回言われても悲しいもの。私が淑女に有るまじき粗野な言葉遣いや、行動をしていたならわかるがそんな事はしていない。ただ、私が気に入らないから。
「……申し訳ありません」
反射のように謝ると、婚約者であるロイは露骨に眉をひそめる。
「謝れば済むと思っているところも気に入らない」
そう吐き捨て、彼はさっさと馬車へ乗り込んでしまった。
残された私は、小さく頭を下げたまま動けない。
庭にいた使用人たちは気まずそうに視線を逸らし、侍女のレナが心配そうに近寄ってくる。
今日は月に1回の婚約者とのお茶会だったのだが…。お茶菓子をまともに食べる事もなく帰っていった。
以前なら婚約者との交流の為のお茶会は月に2、3回あったのだが、ロイが忙しいから月に1回にして欲しいとの要望で今に至る。
それなのに、ろくに話もせずに言いたいことだけ言ってすぐに帰るのだ。
「ルイザお嬢様……」
「大丈夫よ」
笑顔を作る。
慣れている。
十歳で婚約が決まってから八年。
ロイは一度だって優しい言葉をくれたことはない。
体格がよく、令嬢らしい華奢さも可憐さもない地味な私が嫌いなのだと、本人の口から何度も聞かされた。
彼の女性の好みは、華奢で背が小さく、目がクリクリとした可愛らしい女性らしい。
私はロイよりは少し背が低いが、肩幅が彼と同じくらいだ。彼の基準からすれば、女らしくない、とのこと。
『お前と並ぶと恥ずかしい』
『女らしくない』
『口を開くな黙っていろ』
どれも一度や二度ではない。
婚約したての頃はロイの言葉に怯え、顔色を伺っていた。少しでも好かれたくて。
しかし、それも気に入らないらしく『その大きな身体でオドオドするな』と怒られることも。
それでも婚約は家同士の約束。
「結婚したくありません」
そんな我が儘を言える立場ではなかった。
だから、私は一つだけ、自分を守る方法を見つけた。
◇◇◇
部屋へ戻るなり、机の引き出しから一冊の革表紙の本を取り出す。
誰にも見せられない、大切な日記。
羽ペンを持つと、先ほどの出来事を書き始めた。
『今日はロイ様に、もっと女性らしいところを見てみたいと言われました』
くすり、と笑みがこぼれる。
「違うわね」
書き直す。
『今日は可愛いって言いかけて、照れてしまわれたみたい』
その方がいい。
ずっと幸せだ。
さらに続ける。
『謝らなくていい、と頭を撫でてくださいました』
実際にはそんなこと、一度もない。
けれど、この日記の中では違う。
ロイは優しく笑う。
私のことを大切にしてくれる。
照れ屋で、不器用だけれど、本当はとても愛情深い人。
全部、全部、私が作り上げた人だ。
最後の一文を書き終える。
『また明日も会えるのが楽しみです』
インクが乾くのを待ちながら、その文字を何度も読み返す。
すると、不思議と胸の痛みが少しだけ和らいだ。
何年も続く冷たい態度や暴言に疲れ、心の癒しを求めた。ふとある日、彼した行動や言動を真逆に…甘く優しいものにして日記に書けば辛い時の心の慰めになるかと思い立ち、半年前から始めた。今ではすっかりこの妄想日記に夢中だ。
「おやすみなさい、ロイ様」
現実には決して言えない言葉を、小さく呟く。
その夜も私は、夢の中でだけ愛されるのだった。




