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建造物を創造しよう

今度は、自分の姿から流れるように連想した、別のイメージが浮かぶ。


石。


白い柱。


巨大な建築。


高い天井。


神殿。


「……そうだ、服装がこれなら、建物も神殿風がいいな」


そう呟いた瞬間だった。


世界が震える。


いや、本当に震えた訳じゃない。


だが空間そのものが、何かを受け入れるように揺らいだ感覚があった。


地面が盛り上がる。


石が生まれる。


何も無い空間から、巨大な白亜の建築物が姿を現し始めた。


「うおぉ……!」


俺は思わず声を上げる。


それは、俺がフワッとイメージしていたものなどではない、圧倒されるほどの迫力を持ってそこにあった。


幾段もの石段を登った先、高く持ち上げられた基壇の上に建てられた白い大理石の神殿は、まるで世界の中心を示すためだけに存在しているかのようだった。


長方形の建物を取り囲むように、大理石の円柱が規則正しく並んでいる。


一本一本が巨大な樹木のように太く、高く、それでいて圧迫感よりも整然とした美しさを感じさせた。


正面には広い階段があり、その先には人が何十人と並んで歩けそうな大きな玄関口が開いている。


三角形の破風には繊細な彫刻が刻まれ、神話の一場面を切り取ったような人影や翼ある獣たちが、石でありながら今にも動き出しそうな躍動感を宿している。


人が畏怖を覚えるために作られたような、美しさそのものを形にしたような建造物。


「……いや、すっげぇな」


俺は呆然とそれを見上げる。


「これ本当に俺が作ったのか? 元からあったんじゃね?」


謎のバグが脳裏を横切り、思わず口に付いて出る。


いや、だがわかっている。さっきまでなかった。俺が望んだからできあがった。


だが流石にイメージだけでここまでできるものだろうか。いやでも実際にできてる。俺は創世者で。そういうことなんだろう。


「そろそろいい加減なれねえとか、、」


そう思い、俺は階段をゆっくり登る。


太陽の日差しなどないはずのこの世界で、柔らかな光を反射するかのように、磨き上げられた石は金にも銀にも見える淡い輝きを返す。


建物そのものに豪奢な装飾は少ない。


だが、だからこそ完成された均衡が際立つ。


余計なものを削ぎ落とした結果として生まれた荘厳さだった。


内部へ入ればさらに広い。


吹き抜けになった大広間は天井が遥か高く、並ぶ柱が奥まで続いている。


床は磨き抜かれた白い石で作られていた。歩くたび、サンダルが石床を軽く撫でるものの、音らしい音はほとんど生まれない。


大広間の中央には何も置かれていない。広い空間だけが静かに広がっていて、その空白が逆にこの場所の存在感を際立たせていた。


俺は思わず足を止める。


別に何かがいる訳じゃない。視線を感じる訳でもない。


それなのに、高く並ぶ柱を見上げた瞬間、胸の奥が妙にざわついた。


神殿。


その言葉が自然と浮かぶ。


いや、当たり前だ。


俺が神殿をイメージして作ったのだから。


出来上がった建物を神殿と呼ぶことに何の不思議もない。


けれど、それだけではない気がした。


これは単なる大きな建物じゃない。


俺自身、上手く説明は出来ないが、足を踏み入れた瞬間から空気が違う。


冷たい空気を感じる。


いや多分、場の雰囲気に当てられただけでそんなはずはなかった。


神殿、神の住処だ。俺はそういうところを意識したのだろうか。


いや、そんな殊勝な人間じゃなかった気がする。


やっぱり創造には何かしらの補完が入っているようだ。


「そりゃそうだよな」


俺が適当に思い描いただけで、こんな場所が出来上がるとは思えない。


柱の一本一本も、天井の高さもそうだ。壁面の装飾も、建物全体の均整もそう。


俺は確かに神殿を作ろうと思った。けれど、それを形にした何かがある。


俺の知識なのか、俺の記憶なのか。


それとも、俺自身が知らない何かか。


分からない。


まただ。またそこへ行き着く。


俺は何者なんだ。


何を知っていて、何を忘れているんだ。


何でこんな場所にいる。


何で世界なんか作ってる。


長い息が零れる。


高い天井へ吸い込まれていく吐息を見送りながら、俺は額を押さえた。


「いやほんと、なんなんだよ俺……」


分からない。


分からないが。


それでも。


「……まぁ、いいか」


俺は笑った。


考え始めたらキリがない。


もう学習した。


この世界では、“分からない”を掘り始めると沼へ沈む。


だったら今は、楽しい方を優先するべきだ。


俺は表へ戻り、石段の上から世界を見渡す。


白い空間と、白い神殿と、白い衣。


まだ何も無い世界。


だが逆に言えば、何でも作れる。


その事実が、じわじわと胸を熱くしていた。


「そうだよ」


自然と口角が上がる。


「やっと楽しくなってきたところじゃないか」


改めて自分の作った建物、神殿を見上げた。


何も無かった世界に、初めて“場所”と呼べるものが出来た。


それだけで妙な達成感がある。


「うん、俺はかなり頑張ったなっ」


誰もいないのに自画自賛してしまう。


実際、かなりの出来だと思う。


神話とかゲームとか映画とか、そういう曖昧なイメージを全部混ぜても引けを取らない。


俺は満足げに頷いた。


が、


「……あー」


急に現実感が戻る。


神殿の周囲には、まだ何も整備されていない。


ただただ広大な地面に突然の神殿って、なんか砂漠の中に朽ちかけの神殿が佇んでるようなイメージじゃね? いや、ピッカピカの新築だけどさ。


俺はどうでもいいことを考え、そしてそれをやっと視界に入れた。


神殿入り口の正面よりも横に、雑多に転がるように置かれているもの。


三つの大岩と、知識の木。そこには鏡と投げ捨てた日記もあるはずだ。


「あ~、そうだった」


俺はゆっくり階段を下りそちらに向かう。


衣の裾が石段を撫でる。


まだ風もない世界だから、音はほとんど無い。静かな世界だった。

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