ちょっと落ち着こう
振り出しに戻った気分にイライラと歩き回っていると、何だか服が窮屈な事に気付いた。
何だ? と自分の姿を覗き込んだ。さっきより何だか太った気がする。
手を見る。
腕を見る。
胸を見る。
太ったんじゃねぇ。でかくなったんだ。
か、鏡!
あたりを見回すと、岩に銀色の細い縁を持つ、大きな姿見が立て掛けて合った。
俺は飛び込むように鏡の前に立った。
映った俺は十七、八歳位のスタイルのいい、容姿が整っている男だった。
柔らかな顔立ち。
切れ長ではない、どちらかと言えば穏やかな印象の目元。
光を溶かしたみたいな金髪。
そして、透き通るような碧眼。
腰にバスタオルを巻いただけの、細身だか引き締まった体。
その全てを余すところなくジロジロと、鏡の中の俺を覗き込み。
「いや、誰だよっ!」
思わず声が漏れた。
人間離れした雰囲気がある。綺麗だ、とすら思った。
だが全然違う、と思った。
鏡へ近づく。
顔を寄せる。
碧眼の青年も同じ動きをする。
当たり前だ。
鏡なのだから。
けれど納得できなかった。
こんな顔だったか?
こんな髪色だったか?
いや、違うだろ! 何がどう違うのか分からないが、何かが絶対違う気がしてならない。
本当に何なんだ、ここは。いったいどうしたっていうんだ、俺は。
何が違うんだ? 何で違うなんて思うんだ? 何が正解なんだ?
「あぁあぁああ!わけわかんねぇええええぇ!」
記憶だ。
記憶がすべてだ。
記憶さえ取り戻せれば、すべてが解決する。
でも、どっかのばかやろうが日記をまったく書いていやがらねぇから、振り出しに戻っちまった。
「このくそばかやろうがっ」
鏡の中の自分に向かって悪態をつく。
もちろん鏡の中の自分が言い返してくる事などありえない。
フンッと鼻息荒く鏡の前から移動し、記憶を取り戻すほかの方法を考える。
日記も記憶の実も駄目だったか、考え方自体は間違っていないはずだ。
他に記憶を形にしたもの・・・。
写真?写真!スマホ!!
思い付き、あたりを見回す。
それらしき物は見当たらない。
いったいどういうことだ? 日記の時は思いついた時点で手元にあった。
岩も地面も服もそうだった。
それなのにスマホは現れない。
アスマホを持っていなかった? いや、そんなはずはない。何故だか分からないが、それは絶対に違う気がする。
スマホはあるはず。それなのに願っても叶わない。
これはおかしい。
俺は創世者。願えば叶う人だ。それなのに願っても叶わない。記憶を辿ろうと願うと、上手くいかない。
何かある。
それが俺がこんな所にいる理由だ。きっとそう。
俺は誰かに嵌められたのか?
その考えには違和感がある。きっとそれは違う気がする。
じゃあなんだ?
俺は分かる事と分からない事が増えている。いや、分からないという事自体、さっきまで分かっていなかったのだから、どちらかといえば分からない事のほうが増えているのかもしれない。
戻らない記憶。
それを望んでいる奴がいる?
そうかもしれない、、、
いやでもそうなると、世界を作る力を持つ願えば叶う創世者の、記憶を封じている奴がいるってことになるのか?
そしてふと思い立つ。
、、、もしかすると。
誰かが他にいて、創世者という席があって、そこへ押し込まれたみたいな。
「……うわ、嫌な想像してきた」
思わず顔を覆う。
もしそうなら。
俺は、自分の意思でここにいるのか?
それとも。
誰かに“創世者”へされたのか?
そうかもしれない。
でも何故?
わからない。。。
分からない。。
分からない!!
俺は頭をガシガシと掻き毟る。
それでも気が治まらず、走り出す。
分からない! 分からない!! 分からない!!!
「うがぁあぁああ!! わかんねぇ!! 何なんだいったい! 何が起こってるんだ! 俺は誰で、ここはどこだぁああぁ!!!」
俺は走りながら声を大にして叫んだ。
もちろん答えが出るはずも無い。
「うがぁあああああぁあ!!」
それでも叫び続け、走り続けた。
ただひたすらに叫び、そして走り続け、少しは気が落ち着いてきた。
疲労感も無く、空腹感も無い。時間の感覚すら無い。
気持ち悪い世界だ。
そう思い、不意に立ち止まる。
「そうだ、この世界が不快なら、俺が作り直せばいい」
俺は創世者。俺が望めば、それが出来るはず。




