第68話 死者は邪神に従わない
邪神の座に、二人のセレスティアが並び立った。
一人は、真神格へ至った剣神セレスティア。
黒星を右に。
閃白を左に。
解白を背に。
終わるべきものだけを終わらせる現世神。
もう一人は、剣聖セレスティア。
前世のセレスティア。
完全な復活ではない。
魂が戻ったわけでもない。
人格が蘇ったわけでもない。
名もなき森に安置された肉体。
その魂の座の最深部に、邪神すら気づけなかった想いが残っていた。
絶対に邪神戦争を終わらせる。
ただ、それだけの想い。
その残渣が、剣神セレスティアの真神格に呼応し、一時的に形を得た。
邪神の眷属ではなく。
剣神の眷属として。
剣聖セレスティアは、無銘の白刃を構えていた。
黒星ではない。
閃白ではない。
それらは、今生のセレスティアの剣だから。
剣聖セレスティアが持つのは、魂の残響から生じた一度きりの刃。
死者の側から邪神を拒むための剣だった。
邪神の前には、無数の魂の座が重ねられている。
死者の眠り。
封印に関わった者たち。
不死の軍勢にされた者たち。
名を取り戻された者たち。
まだ名が分からない者たち。
それらが、盾のように重なっていた。
邪神は、死者を盾にした。
斬れば、死者の眠りを傷つける。
斬らなければ、邪神の奥へ届かない。
セレスティアは、黒星を握りしめた。
だが、まだ振らない。
ここで力任せに斬れば、邪神の思う壺だった。
邪神が笑う。
『死者を眠らせたいのだろう』
「はい」
『ならば斬れぬ』
「……」
『死者を傷つけぬと言うなら、我には届かぬ』
「……」
『終焉とは、結局、斬ることだ』
「違います」
セレスティアは静かに答えた。
だが、邪神の理は揺らがない。
死者の魂の座を盾にする理は深い。
ここで必要なのは、剣神セレスティアの刃ではなかった。
死者の側からの拒絶。
死者は邪神に従わないという理。
そのために、剣聖セレスティアは顕現した。
剣聖セレスティアは、無銘の白刃を構えた。
そして、短く言った。
「死者を、使うな」
その声は大きくない。
だが、邪神の座の奥まで届いた。
魂の座の盾が、白く震える。
邪神が歪む。
『残渣が、何をする』
剣聖セレスティアは答えない。
多くを語らない。
語るほどの人格は、もう残っていない。
だが、想いはある。
邪神戦争を終わらせる。
死者を眠らせる。
邪神に、もう死者を使わせない。
それだけが、刃となっていた。
剣聖セレスティアは一歩出た。
足元のない邪神の座で、確かに一歩を踏む。
無銘の白刃が、死者の盾へ触れた。
斬らない。
傷つけない。
死者の魂の座へ重ねられた邪神の理だけに、刃を当てる。
白い光が走った。
死者の盾の一部が、内側から開いた。
邪神が、初めて明確に怒った。
『我のものだ』
「違う」
剣聖セレスティアは言った。
「死者は、眠る」
白刃がもう一度走る。
死者の魂の座が、次々に揺れた。
それは復活ではない。
覚醒でもない。
ただ、拒絶だった。
邪神に従わない。
邪神の盾にならない。
邪神の器にならない。
邪神の鎖にならない。
死者は、眠る。
その理が、死者の側から響き始めた。
地上。
白樹の森の古記録庫で、ミレーヌが名簿を読んでいた。
決戦二十四時間を過ぎ、第二日へ入っている。
疲れはある。
声もかすれ始めている。
だが、交代制を守っているため、倒れる者はいない。
王妃が読み手たちへ温かい食事を配る。
ルシェルは泉の反応を記録していた。
その時、白樹の泉が大きく揺れた。
黒と虹色の光の中に、白い光が一本混じる。
ルシェルが顔を上げた。
「名もなき森の反応と同質」
ミレーヌが息を呑んだ。
「前世のお姉様ですか」
泉の向こうは見えない。
だが、感じる。
邪ではない。
神格でもない。
清浄な残響。
王妃が静かに目を伏せた。
「死者の眠りが、邪神を拒んでいるのですね」
王は大広間から報告を受け、短く言った。
「読み上げを続けよ」
ミレーヌは頷いた。
そして、名簿を開いた。
「剣聖セレスティア」
その名を読んだ瞬間、古記録庫の空気が変わった。
ルシェルが筆を止めかける。
だが、止めない。
ミレーヌは続けた。
「七十年前、邪神戦争にて退路を守り、死去」
「死後、邪神格に肉体を利用される」
「剣神セレスティアにより邪神格から解放」
「名もなき森に安置」
「崇めず」
「祀らず」
「ただ眠る者」
白樹の泉の白い光が、さらに強くなる。
ミレーヌの声は震えていた。
それでも、続けた。
「探索継続対象ではなく」
「忘却対象でもなく」
「英雄として飾るのでもなく」
「一人の死者として」
「眠るべき者」
泉が、静かに波打った。
邪神の座。
剣聖セレスティアの白刃が、強く光った。
彼女はミレーヌの声を聞いたわけではない。
だが、地上で名が呼ばれたことは、魂の座の残響へ届いた。
剣聖セレスティアは、わずかに目を伏せた。
それは感情ではない。
意識でもない。
だが、安堵に近い何かだった。
邪神が唸る。
『死者を名で縛るか』
剣神セレスティアが答えた。
「違います」
『ならば何だ』
「眠る場所を示しているだけです」
セレスティアは、黒星を構えた。
「死者に役目を押しつけるのではありません」
閃白が澄む。
「死者を美しい物語に閉じ込めるのでもありません」
解白が淡く光る。
「ただ、その者がいたことを忘れない」
剣聖セレスティアの白刃が、死者の盾をさらに開く。
そこに、剣神セレスティアが踏み込む。
二人は、同じ速度で動いた。
同じ剣筋ではない。
同じ人格ではない。
だが、根にある想いが重なっていた。
終わらせる。
死者を眠らせる。
邪神に、もう使わせない。
剣聖セレスティアが、死者の盾を内側から開く。
剣神セレスティアが、盾の隙間に絡む邪神の理だけを斬る。
黒星が重く押さえる。
閃白が白く祓う。
解白が結び目をほどく。
無銘の白刃が、死者の側から邪神の支配を拒む。
死者の魂の座が、次々に眠りへ沈んでいく。
邪神が叫んだ。
『眠れば終わる』
「はい」
剣神セレスティアが答える。
『終われば消える』
「いいえ」
『死者は消える』
「違います」
剣聖セレスティアが短く言った。
「眠る」
その一言で、死者の盾の中心が開いた。
邪神の奥へ続く道が見えた。
そこには、さらに深い黒い核があった。
邪神本体の中核。
まだ遠い。
だが、初めて道が開いた。
剣神セレスティアは、剣聖セレスティアを見た。
「ありがとうございます」
剣聖セレスティアは、首を横に振った。
「終わらせる」
「はい」
「帰りなさい」
「はい」
「眠らせる」
「はい」
二人は再び前を向いた。
邪神は、死者の盾を失い始めている。
地上。
人間王国では、豪雨の中、記録官たちが王都の地下記録庫に集まっていた。
水が階段を流れ落ちてくる。
若い記録官が防水布を押さえながら叫ぶ。
「紙が濡れます!」
老記録官が怒鳴る。
「写しを上に運べ!」
「でも読み上げは!」
「読み上げ班は残る!」
「はい!」
地下記録庫の中で、声が響く。
「氏名未判明」
「七十年前、北方氷原封印補助に関与した者」
「探索継続対象」
「忘却せず」
水が足元へ流れ込む。
それでも、声は止まらない。
王国の王は、濡れた外套のまま地下記録庫へ入った。
護衛が止めようとする。
だが、王は手を上げた。
「続けよ」
老記録官が頭を下げる。
「陛下」
「読む者が足りぬなら、私も読む」
記録官たちは一瞬固まった。
王は名簿を受け取った。
「アルディス」
「境界を閉じた賢者」
「三賢者の一柱」
「七十年前、邪神本体封印に生命を捧げた者」
王の声が、雨音の地下に響いた。
邪神の座。
アルディス柱が、深層で白く光る。
剣神セレスティアは、それを感じた。
「地上が支えています」
剣聖セレスティアが頷く。
言葉は少ない。
だが、分かる。
地上が死者を呼ぶ。
死者は邪神を拒む。
剣神が邪神の理を斬る。
それが、今の戦いだった。
邪神は、次の手を打った。
死者の盾が開かれるなら、死者そのものを歪める。
邪神の黒い根が、眠りへ沈みかけた魂の座へ再び絡もうとする。
それは、死者の痛みではない。
死者の安堵へ触れようとする理だった。
『眠るな』
『終わるな』
『まだ使える』
『まだ役に立てる』
『世界を守れる』
『剣神を助けられる』
セレスティアの神格が、わずかに揺れた。
邪神は巧妙だった。
死者を苦しめるだけではない。
死者の善意すら使おうとする。
まだ役に立てる。
世界を守れる。
剣神を助けられる。
その言葉は、甘い。
死者を眠らせないための、甘い鎖だった。
剣聖セレスティアが、白刃を強く握った。
「違う」
剣神セレスティアも頷いた。
「はい」
セレスティアは、死者の魂の座へ向けて言った。
「もう、役目は終わっています」
邪神が囁く。
『冷たい』
「違います」
『助けたい死者を拒むのか』
「違います」
『役に立ちたいという願いを否定するのか』
「違います」
セレスティアは、閃白を静かに構えた。
「死者を、役目から解放します」
剣聖セレスティアが白刃を上げる。
「眠れ」
その声が、死者の魂の座へ届く。
命令ではない。
許可だった。
もう戦わなくてよい。
もう守らなくてよい。
もう役目を背負わなくてよい。
眠ってよい。
白い光が広がった。
死者の魂の座が、一つ、また一つと沈んでいく。
邪神の甘い鎖がほどける。
解白が淡く告げる。
『役目継続強制理、確認』
「終わらせます」
黒星で鎖を押さえる。
閃白で濁りを祓う。
解白で、役目と魂の座を結んだ黒い結び目をほどく。
剣聖セレスティアが、死者の側から白刃を入れる。
二つの刃が交わった。
邪神の甘い鎖が裂けた。
役目を終えた死者たちが、眠りへ沈む。
邪神が、明確に怒った。
『なぜ眠る』
『まだ使える』
『まだ守れる』
『まだ価値がある』
剣神セレスティアは、静かに言った。
「役に立たなくても、眠ってよいのです」
その言葉が、邪神の座に響いた。
剣聖セレスティアの白刃が輝く。
「眠れ」
死者の座が、さらに深く沈んだ。
地上。
白樹の森で、ミレーヌはその変化を感じた。
名簿を読む声が、先ほどまでとは違っていた。
死者を戦場へ呼び戻す声ではない。
死者を眠りへ送る声。
ミレーヌは、次の名を読んだ。
「氏名未判明」
「七十年前、補給陣地防衛に関与した者」
「探索継続対象」
「忘却せず」
少し間を置いて、付け加えた。
「役目を終えた者」
「眠るべき者」
ルシェルが顔を上げた。
それは予定にない文言だった。
だが、止めなかった。
むしろ記録した。
王妃も静かに頷いた。
王が大広間でその報告を聞き、言った。
「以後、読み上げに加えよ」
各地へ通達が飛ぶ。
死者名簿読み上げ文言に追加。
役目を終えた者。
眠るべき者。
人間王国でも、地下記録庫でその言葉が読まれた。
海底でも、巫女たちが霊流の合間に唱えた。
竜の谷でも、老竜が低く唸るように言った。
グランガルドでも、ゴルドが槌を振るいながら呟いた。
「役目は終わりだ。眠れ」
その声は、地上から邪神の座へ届いた。
邪神の甘い鎖が、さらに弱まる。
剣神セレスティアは、地上の声を感じた。
胸が熱くなる。
だが、刃は揺らさない。
「ありがとうございます」
剣聖セレスティアが、隣で小さく頷いた。
彼女自身もまた、役目を終えた死者だった。
だが、今だけ立っている。
眠るために。
終わらせるために。
それは、役目を押しつけられたのではない。
残った想いが、自ら選んだ一度きりの刃だった。
邪神は、死者の盾を大きく失った。
その奥に、黒い中核が見える。
セレスティアは神眼を深めた。
邪神本体の核。
まだ遠い。
だが、近づいている。
そこに至るには、まだいくつもの理を剥がさなければならない。
死者の盾。
役目の鎖。
善意の利用。
それらを斬った。
次に来るのは、生者の側への揺さぶりだ。
そう思った瞬間、邪神が地上へ根を伸ばした。
白樹の森。
大広間の床が揺れた。
王が倒れかけた書類棚を支える。
王妃が読み上げ班を退避させず、机の下ではなく壁際へ寄せる。
ルシェルが記録板を抱える。
ミレーヌが名簿を胸に抱く。
白樹の泉が黒く盛り上がった。
そこに、邪神の声が混じる。
『剣神を助けたいか』
大広間の全員が固まった。
邪神の声が地上へ届いた。
『ならば、差し出せ』
『生者の力を』
『血を』
『魂を』
『祈りを』
『剣神へ送れ』
『剣神を勝たせたいのだろう』
王の目が鋭くなる。
邪神は、今度は生者の善意を使おうとしていた。
剣神を助けたい。
世界を救いたい。
その思いを、犠牲へ変えようとしている。
ミレーヌが一歩前へ出かけた。
王妃が肩を押さえた。
「いけません」
「でも」
「それは邪神の誘いです」
王が、泉へ向かって言った。
「白樹の森は、誰も差し出さぬ」
邪神の声が笑う。
『剣神が苦しんでいるぞ』
王は揺れなかった。
「セレスティアは、他者の魂を糧にする神ではない」
ルシェルが続けた。
「剣神セレスティアへの生贄、供犠、魂力送付、全て禁止」
王妃が言った。
「必要なのは食事と休息と持ち場です」
ミレーヌが、涙をこらえて頷いた。
「私は、名を読みます」
大広間の空気が定まる。
王は各地へ通達を出した。
邪神による生者犠牲誘導あり。
剣神への魂力供給、祈祷による生贄、血の儀式、全て禁止。
各自の持ち場を維持。
白樹の森は、剣神に生者を差し出さない。
世界連合も同様とする。
通達は、各地へ飛んだ。
グランガルドで、弟子の一人が青ざめて言った。
「親方、剣神様に力を送れるなら」
ゴルドが拳骨を落とした。
「馬鹿野郎!」
「痛っ!」
「バカ姫がそんなもん喜ぶか!」
「でも」
「槌を振れ!」
「はい!」
「魂なんぞ送るな! 杭を打て!」
「はい!」
海底で、若い巫女が自分の血を霊流へ混ぜようとした。
巫女長が即座に止めた。
「それは邪神の理です」
「でも、剣神様が」
「剣神様は、あなたの血を求めていません」
竜の谷で、若い竜が竜心を燃やそうとした。
老竜が尾で叩き伏せた。
「己を燃やすな」
「しかし」
「骨を支えろ。命を燃料にするな」
草原で、戦士が自らを風除けにしようとした。
族長が怒鳴った。
「死ぬな! 立て! それが役目だ!」
邪神の座。
セレスティアは、地上へ伸びた邪神の根を見た。
怒りが湧く。
生者の善意まで使おうとする。
死者だけでは足りず、生者の献身すら鎖に変える。
だが、怒りを刃にしない。
炉へ沈める。
見極める。
「邪神」
セレスティアの声は低かった。
「それが、あなたの理ですか」
『善意は力だ』
「違います」
『献身は美しい』
「違います」
『犠牲は尊い』
「違います」
『ならば使うべきだ』
「違います」
セレスティアは、黒星を構えた。
「善意は、他者を燃料にする許可ではありません」
閃白を構える。
「献身は、命を差し出す強制ではありません」
解白が淡く光る。
「犠牲を美化して、次の犠牲を作る理は終わらせます」
剣聖セレスティアも白刃を構えた。
「使うな」
二つのセレスティアが同時に踏み込んだ。
剣聖セレスティアは、生者へ伸びる邪神の根を死者側から断つ。
剣神セレスティアは、生者の善意へ絡む邪神の理を剥がす。
黒星が根を押さえる。
閃白が濁りを祓う。
解白が善意と犠牲の結び目をほどく。
無銘の白刃が、邪神の根に拒絶を刻む。
死者は邪神に従わない。
生者も邪神に差し出されない。
セレスティアは、終焉を通した。
「終わるべきものだけ、終わりなさい」
生者の善意を犠牲へ変える理が、裂けた。
地上から、邪神の声が消えた。
白樹の森の大広間に、沈黙が落ちる。
王が静かに言った。
「続けよ」
ミレーヌが名簿を開く。
ルシェルが記録する。
王妃が食事を配る。
それぞれが、自分の役目に戻った。
邪神の座。
剣神セレスティアは、少しだけ息を吐いた。
剣聖セレスティアの光が、わずかに薄くなる。
「大丈夫ですか」
剣聖セレスティアは頷いた。
「まだ」
「無理は」
「眠るため」
それだけ言って、剣聖セレスティアは再び邪神を見た。
セレスティアは理解した。
この顕現は長くない。
魂の残渣が形を得ているだけだ。
使い果たせば、消える。
だが、それは死ではない。
本来の眠りへ向かうだけ。
セレスティアは、胸の奥に痛みを感じた。
だが、止めない。
彼女を役目から引き戻さない。
前世セレスティアの想いは、今ここで自ら立っている。
ならば、尊重する。
邪神の奥が、さらに開く。
死者の盾は崩れた。
生者の犠牲誘導も裂けた。
その先に、邪神本体の核が、よりはっきりと見える。
だが、その核を守るように、黒い王冠のような理が現れた。
支配。
世界を一つの理で統べる邪神の中枢思想。
邪神が言った。
『世界は乱れている』
「はい」
『死者は忘れられる』
「はい」
『生者は迷う』
「はい」
『神は干渉しない』
「はい」
『ならば、我が統べる』
「違います」
『我ならば、全てを一つにできる』
「違います」
『我ならば、死者も生者も神も、同じ理に置ける』
「違います」
セレスティアは、黒い王冠を見た。
邪神なりの正義。
世界を乱れたままにしない。
全てを一つの理に収める。
痛みも迷いも忘却も死も、邪神の支配下に置く。
それは、邪神にとって秩序だった。
だが、セレスティアは知っている。
それは世界ではない。
ただの支配だ。
「神は干渉しません」
セレスティアは言った。
「だからといって、邪神に支配を許す理由にはなりません」
『神々は見ているだけだ』
「はい」
『お前も本来、干渉しないと言った』
「はい」
『ならば退け』
「退きません」
『矛盾だ』
「違います」
セレスティアは、黒星を上げた。
「あなたは、世界の理を侵しています」
閃白が白く澄む。
「あなたは、死者の眠りを奪っています」
解白が淡く光る。
「あなたは、生者の選択を素材にしています」
剣聖セレスティアが白刃を構える。
「だから」
二人の声が、重なった。
「終わらせる」
黒い王冠が、邪神の核を覆う。
第二日の戦いが、本当の深層へ入った。
地上では、豪雨がさらに強まる。
竜巻は夜明けの草原を裂く。
海は荒れ、山は唸り、竜脈は震える。
だが、世界はまだ立っている。
剣神セレスティアと剣聖セレスティアは、邪神の支配理へ刃を向けた。
七十二時間のうち、三十時間。
第二日は、まだ半ばにも届いていなかった。




