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神剣のセレスティア  作者: 玉響すばる


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第6話 バカじゃない剣は弟子対応

 翌日。


 セレスティアは、昨日よりも少し早く宿を出た。


 朝食は、また重かった。


 肉。


 卵。


 豆。


 黒パン。


 山羊乳。


 さらに、焼いた魚まで増えていた。


 女将は笑顔で言った。


「ゴルド親方から追加だよ。姫さんは魔力を使うから魚も食わせろってさ」


 セレスティアは、朝から少し遠い目をした。


「ゴルド親方は、わたくしを鍛えるつもりですのね」


「そりゃあ、剣を打つんだろう?」


「はい」


「なら、食べな」


「……はい」


 セレスティアはきちんと食べた。


 昨日より身体が軽い。


 黒星の芯に魔力を通した疲れは残っている。


 だが、嫌な疲れではない。


 鍛錬の後に似ている。


 身体の奥で、何かが組み替えられていくような感覚。


 剣が生まれる過程に、自分も巻き込まれている。


 そんな感覚だった。


 宿を出ると、鍛冶町グランガルドはすでに騒がしかった。


 槌の音。


 荷車の音。


 職人の声。


 炉の火が空へ吐き出す煙。


 昨日と同じ朝。


 けれど、セレスティアの胸は少しだけ弾んでいた。


 今日も黒星を見る。


 黒星の芯が、さらに剣へ近づいていく。


 そして、もしかすると閃白の素材も見ることができるかもしれない。


 そう思うと、どうしても足が速くなる。


「……王女としては、落ち着くべきですわね」


 自分に言い聞かせる。


 だが、剣士としては無理だった。


 セレスティアは、鍛冶場へ向かった。


 ゴルドの鍛冶場が見えてくる。


 昨日と同じ石壁。


 同じ煙突。


 同じ重い木の扉。


 そして、入口前の立看板。


 バカの剣のみゴルド対応。


 セレスティアは、それを見て小さくため息をついた。


 昨日から撤去されていない。


 むしろ、板の文字が少し濃くなっている気がする。


 誰かが塗り直したらしい。


 だが、問題はそこではなかった。


 その隣に、新しい看板が増えていた。


 セレスティアは、足を止めた。


 新しい看板には、こう書かれていた。


 バカじゃない剣は弟子対応。


 セレスティアは、しばらく無言だった。


 朝の鍛冶町の喧騒が、少し遠くなる。


 通りすがりの職人が看板を見て、次にセレスティアを見た。


 そして、何事もなかったように早足で去っていった。


 鍛冶場の前を掃除していた若い弟子が、こちらに気づいた。


 顔が引きつる。


 セレスティアは、にこりと微笑んだ。


「おはようございます」


「お、おはようございます、姫様」


「看板が増えておりますわね」


「は、はい」


「これは、どなたが?」


「親方です」


「でしょうね」


 セレスティアは、もう一度看板を見た。


 左の看板。


 バカの剣のみゴルド対応。


 右の看板。


 バカじゃない剣は弟子対応。


 つまり。


 ゴルドが対応するのは、セレスティアのような非常識な剣だけ。


 普通の剣は弟子に頼め。


 そういう意味である。


 分かる。


 分かるが、納得は別である。


「これはつまり、わたくしの剣はバカの剣で、その他の方の剣はバカではない剣、ということですの?」


 弟子は視線を泳がせた。


「そ、そのような意味に読めます」


「読めますわね」


「はい」


「ですが、わたくしの剣だけがバカというのは、少し納得しかねますわ」


 弟子は冷や汗を流した。


「ぼ、僕に言われましても」


「そうですわね。あなたに言っても仕方ありませんわ」


 セレスティアは、静かに扉へ向かった。


 弟子が慌てて横に避ける。


 その顔には、明らかにこう書いてあった。


 親方、すみません。


 姫様、怒っています。


 セレスティアは扉を開けた。


 鍛冶場の中は、すでに熱かった。


 剣炉には火が入っている。


 赤い炎の奥に、白銀の魔力の筋が揺れていた。


 黒星の芯は、炉の近くの台に置かれている。


 昨日よりも、少しだけ形が整っていた。


 荒々しい黒銀の塊だったものが、細長い芯材へ変わりつつある。


 まだ剣ではない。


 だが、剣になるための骨格が見え始めている。


 セレスティアは一瞬、それに目を奪われた。


 胸が高鳴る。


 だが、すぐに視線を戻した。


 作業台の前に、ゴルドがいた。


 髭を揺らしながら、羊皮紙に何かを書いている。


 セレスティアは近づいた。


「ゴルド親方」


「あん?」


「看板が増えておりますわ」


「見たか」


「見ましたわ」


「ならいい」


「よくありませんわ」


 ゴルドは顔を上げた。


 面倒くさそうな顔だった。


「何がだ」


「バカじゃない剣は弟子対応、とはどういう意味ですの?」


「そのままの意味だ」


「つまり、わたくしの剣はバカの剣であると」


「そうだ」


「バカではない剣は弟子の方々でも対応可能であると」


「そうだ」


「では、わたくしの剣だけがバカの剣ということになりますわね」


「そうだ」


 セレスティアは目を細めた。


 ゴルドは一切悪びれない。


 むしろ、なぜ分かりきったことを確認するのかと言いたげである。


「抗議いたしますわ」


「却下だ」


「早すぎませんこと?」


「事実だからな」


「わたくしは、ただ黒星と閃白をお願いしているだけですわ」


「前世のアダマンタイト大剣とオリハルコン両手剣を、今生のハイエルフ王女用に、魔力制御対応で作り直せという注文だろうが」


「はい」


「バカだ」


「即答ですのね」


「即答できるほどバカだ」


 弟子たちが肩を震わせた。


 古参の職人までもが、口元を隠している。


 セレスティアは、そちらへ視線を向けた。


 弟子たちは慌てて作業へ戻った。


 ゴルドは構わず続けた。


「普通の剣なら、弟子でも打てる」


「普通とは」


「身長、腕力、流派、用途、予算、素材。それを聞いて、剣身の長さ、重心、厚み、柄、鍔を決める。まともな剣士なら、それで足りる」


「なるほど」


「だが、お前は違う」


「どこがですの?」


「全部だ」


「全部」


「まず、前世の癖が残っている」


「はい」


「今生の身体はハイエルフだ」


「はい」


「魔力で剣を制御する」


「はい」


「大剣なのに刃筋を細かく微修正する」


「はい」


「両手剣で斬撃の角度を曲げる」


「はい」


「受けた衝撃を魔力で逃がして、次の一撃に戻す」


「はい」


「その上で、黒星は重くなければ嫌だと言う」


「重要ですわ」


「閃白は速く、鋭く、魔力導線を増やせと言う」


「必要ですわ」


「それをバカと言わず何と言う」


 セレスティアは少し考えた。


「高要求仕様?」


「バカだ」


「高度個別最適化?」


「バカだ」


「王女専用特注剣?」


「バカの剣だ」


「親方は語彙が少ないですわ」


「一番正確な言葉を使っているだけだ」


 鍛冶場に、とうとう小さな笑いが漏れた。


 セレスティアは、わざとらしくため息をついた。


「分かりましたわ」


「何がだ」


「つまり、ゴルド親方にとって、わたくしの剣は弟子に任せられないほど難しいということですわね」


 ゴルドの眉が動いた。


 セレスティアは微笑んだ。


「そう解釈すれば、看板も悪くありませんわ」


「調子に乗るな」


「あら。違いますの?」


「違わねぇから腹が立つ」


「では、正解ですわね」


「やっぱりバカだな」


「褒め言葉として受け取りますわ」


「褒めてねぇ」


「半分は褒めておりますわ」


「勝手に増やすな」


 古参の職人が、ついに笑った。


 若い弟子たちも笑った。


 ゴルドが睨む。


「笑っている暇があるなら手を動かせ!」


「はい!」


 弟子たちは慌てて動く。


 だが、鍛冶場の空気は昨日より明るかった。


 五十一年間、剣を打たなかったゴルドの鍛冶場。


 包丁や鋸や農具を作る場所としては、名工の仕事場だった。


 だが、今は違う。


 剣を打つ熱が戻っている。


 火の熱だけではない。


 職人たちの目の熱。


 弟子たちの緊張。


 古参の職人の誇り。


 そして、ゴルドの不機嫌な顔の奥にある、確かな高揚。


 セレスティアは、それを感じ取っていた。


 ゴルドは黒星の芯へ向かった。


「今日は、黒星の芯に受け流しの癖を入れる」


「昨日の続きですわね」


「ああ」


 ゴルドは黒星の芯を見下ろした。


 まだ荒い。


 まだ剣身ではない。


 だが、中央芯と左右芯の考え方はすでに入っている。


 中央は破壊。


 左右は制御。


 そして、受けた力を逃がし、返すための流れ。


「お前の魔力をもう一度炉に流せ」


「はい」


「昨日より細くしろ」


「どれくらいですの?」


「閃白を想定する寸前くらいだ」


 セレスティアは目を細めた。


「黒星に、閃白ほどの細さを混ぜるのですか?」


「全部じゃねぇ。左右の芯だけだ」


「なるほど」


「中央に細さを入れすぎると、黒星の重さが死ぬ。だが左右には要る。受け流すには、粗い魔力では駄目だ」


「分かりましたわ」


 セレスティアは剣炉の前に立った。


 熱が頬を撫でる。


 昨日より、炉が近く感じた。


 前世の火ではない。


 今生の自分を覚え始めた火だ。


 手をかざす。


 魔力を流す。


 強くではない。


 細く。


 糸のように。


 だが、途中で切れないように。


 黒星を想定しながら、閃白に近い細さを混ぜる。


 大剣の中に、精密さを通す。


 セレスティアの魔力が、白銀の筋となって火へ入った。


 炉の炎が揺れる。


 赤い火の奥で、白銀の線が二本に分かれた。


 ゴルドの目が鋭くなる。


「そうだ。それを保て」


「はい」


「強くするな。太くするな。切るな」


「……はい」


 セレスティアは呼吸を整えた。


 魔力を細く保つのは、強く流すより難しい。


 強い魔力なら押し出せばいい。


 だが、細い魔力は乱れやすい。


 少し気が逸れれば太くなる。


 少し力を抜けば切れる。


 セレスティアは、炉の火を見つめた。


 昨日の看板。


 今日の看板。


 バカの剣。


 バカじゃない剣。


 ふざけた言葉。


 だが、今やっていることは、確かに普通ではない。


 大剣の芯に、ここまで細い魔力制御を求める。


 普通の鍛冶師なら、必要ないと切り捨てるだろう。


 普通の剣士なら、扱えないと諦めるだろう。


 しかし、セレスティアには必要だった。


 黒星は、ただ重く叩き割る剣ではない。


 今生の黒星は、守り、流し、返し、そして砕く剣になる。


 そのためには、この細さがいる。


 ゴルドが大槌を握った。


「出せ」


 弟子たちが動く。


 黒星の芯が炉から引き出される。


 黒銀の芯の表面に、赤い熱が通っている。


 その奥に、白銀の魔力が二筋、左右へ走っていた。


 ゴルドが槌を振り上げる。


 鍛冶場が静まり返る。


 一打。


 がん、と音が響いた。


 白銀の筋が、黒銀の芯の内側へ沈む。


 二打。


 左右へ流れた魔力が、金属の中へ馴染む。


 三打。


 中央芯が重く鳴る。


 四打。


 左右芯が、わずかに震えた。


 ゴルドは槌を止めない。


 昨日より、打つ速度がわずかに速い。


 だが、乱暴ではない。


 一打ごとに、魔力の線を潰さず、伸ばしている。


 アダマンタイトという硬い素材の中に、セレスティアの魔力の癖を叩き込む。


 それは鍛冶というより、金属との根比べだった。


 若い弟子が水晶板を見て声を上げた。


「親方、左右の魔力線が少し乱れています!」


「分かっている!」


 ゴルドが怒鳴る。


「セレスティア、少し戻せ!」


「はい」


 セレスティアは炉ではなく、黒星の芯へ向けて魔力を調整する。


 直接触れてはいない。


 だが、炉を通した自分の魔力が芯に残っている。


 その線を、呼び戻すように整える。


 白銀の筋が、ほんのわずかに戻った。


 ゴルドの大槌がそこへ落ちる。


 がん。


 魔力線が固定された。


「よし」


 ゴルドが低く言った。


 その声に、弟子たちが息を吐く。


 セレスティアも、静かに呼吸を整えた。


 思った以上に難しい。


 剣を振るのとは違う。


 自分の魔力が、剣になる前の素材へ入っていく。


 それを制御する。


 自分の身体ではないものを、自分の一部になるように整える。


 これは、鍛錬だ。


 剣が完成する前から、すでに黒星との稽古は始まっている。


 ゴルドは槌を置いた。


「戻せ」


 黒星の芯が作業台に移される。


 表面は昨日よりも伸びていた。


 そして、ほんのわずかだが、左右に流れる線の気配がある。


 肉眼では分からない。


 だが、セレスティアには分かった。


 黒星の中に、自分の魔力の道ができ始めている。


「触るなよ」


 ゴルドが先に言った。


 セレスティアは手を止めた。


「まだ何もしておりませんわ」


「顔が触りたいと言っている」


「王女として、そこまで顔に出ております?」


「剣のことになると全部出る」


「困りましたわね」


「困るなら直せ」


「努力しますわ」


「たぶん無理だな」


 ゴルドは黒星の芯を見下ろした。


 しばらく無言だった。


 そして、低く言う。


「悪くねぇ」


 弟子たちの空気が緩んだ。


 昨日も聞いた言葉。


 だが、今日の「悪くねぇ」は、昨日より少し重かった。


 黒星が一歩進んだ。


 誰もがそれを感じ取っていた。


 そのとき、鍛冶場の外でまた声がした。


「ゴルド親方に剣を見てもらいたい!」


 弟子たちが一斉に入口を見た。


 ゴルドの眉間に皺が寄る。


「看板を読めねぇのか」


 入口近くの弟子が困った顔で言う。


「読んだうえで、自分の剣はバカの剣かもしれない、と」


 鍛冶場が一瞬止まった。


 セレスティアも瞬きした。


 ゴルドは、心底嫌そうな顔をした。


「面倒な方向に解釈しやがった」


 古参の職人が咳払いをする。


「親方、看板が二枚あることで、逆に自分の剣がどちらに該当するか確認したい客が来る可能性が」


 ゴルドは沈黙した。


 セレスティアは、静かに微笑んだ。


「ゴルド親方」


「あん?」


「看板を増やした結果、問題も増えましたわね」


「うるせぇ」


「バカの剣かどうか、判定が必要になりましたわ」


「お前だけで十分だ」


「ですが、外の方は自分もバカの剣かもしれないと」


「バカの意味が違う」


「説明しなければ伝わりませんわ」


 ゴルドは舌打ちした。


 弟子たちは必死に笑いを堪えている。


 セレスティアは提案した。


「もう一枚、看板を増やしてはいかがです?」


「何と書く」


「バカの判定は受け付けておりません」


 鍛冶場に沈黙が落ちた。


 次の瞬間、若い弟子が吹き出した。


 それをきっかけに、笑いが広がる。


 古参の職人まで肩を震わせていた。


 ゴルドはセレスティアを睨んだ。


「お前、案外根に持つな」


「王女ですので、記録と表示は正確であるべきですわ」


「そういう問題じゃねぇ」


「では、こうしましょう」


 セレスティアは指を立てた。


「ゴルド対応はセレスティアの剣のみ。その他の剣は弟子対応。バカ判定不可」


 弟子たちがさらに笑った。


 ゴルドは額に手を当てた。


「長い」


「では、短くしますわ」


「何だ」


「バカ判定終了」


 ゴルドは黙った。


 セレスティアも黙った。


 鍛冶場も黙った。


 それから、ゴルドが低く言った。


「……採用だ」


「採用されましたわ」


「おい、板を持ってこい」


 弟子が慌てて走る。


「本当に書くのですか?」


「客が面倒だ。書け」


「はい!」


 セレスティアは少し複雑な顔をした。


「わたくしが提案しておいて何ですが、本当に看板が増えるのですわね」


「お前の案だろうが」


「そうですけれど」


「責任を持て」


「わたくしのせいですの?」


「半分はな」


「残り半分は親方ですわ」


「否定はしねぇ」


 外では、弟子が新しい板に文字を書き始めていた。


 バカ判定終了。


 セレスティアは、ついに笑ってしまった。


 白樹の森では、絶対に見ることのない看板である。


 王宮の礼法教師が見れば、卒倒するかもしれない。


 だが、ここはグランガルド。


 ゴルドの鍛冶場。


 そして、これはセレスティアの黒星と閃白を作る場所だ。


 このくらいの無茶苦茶さが、むしろ懐かしかった。


 外の客は、三枚目の看板を見て困惑したらしい。


 しばらく何かを言っていたが、やがて弟子に案内され、別の作業場へ向かっていった。


 弟子対応になったのだろう。


 ゴルドは鼻を鳴らした。


「これで少しは静かになる」


「看板が三枚になりましたわ」


「必要な犠牲だ」


「犠牲にされたのは、主にわたくしの名誉ですわ」


「名誉で剣は打てねぇ」


「それはそうですけれど」


 ゴルドは黒星の芯へ向き直った。


 ふざけた会話は終わり。


 その目は、すでに鍛冶師のものだった。


「次は、返しの癖を入れる」


「受けた力を中央へ戻す流れですわね」


「ああ。今のままだと逃がすだけだ。黒星は逃げる剣じゃねぇ。受けて、流して、最後は砕く」


「はい」


「お前の魔力も、そのつもりで流せ」


「承知しましたわ」


 セレスティアは再び炉の前に立った。


 外には三枚の看板。


 バカの剣のみゴルド対応。


 バカじゃない剣は弟子対応。


 バカ判定終了。


 ひどい。


 あまりにもひどい。


 だが、不思議と嫌ではなかった。


 ゴルドが剣を打っている。


 弟子たちが笑っている。


 鍛冶場に火が戻っている。


 五十一年眠っていたものが、少しずつ動き出している。


 その中心に、自分の剣がある。


 セレスティアは手をかざした。


 魔力を流す。


 今度は、受けて返す流れ。


 逃がすだけではない。


 戻す。


 集める。


 そして、砕く。


 炉の炎が白銀を帯びる。


 黒星の芯が、赤く脈打つ。


 ゴルドが大槌を構えた。


「行くぞ、バカ姫」


 セレスティアは微笑んだ。


「はい、看板親方」


 ゴルドの眉間に皺が寄る。


「誰が看板親方だ」


「三枚も立てれば、そう呼ばれても仕方ありませんわ」


「後で一枚増やすぞ」


「何と書きますの?」


「バカ姫口答え禁止」


「それは撤去いたしますわ」


「やれるものならやってみろ」


「剣が完成したら考えます」


「完成前に壊すなよ」


「もちろんですわ」


 火花が散った。


 槌音が響いた。


 黒星の芯は、また一つ深く、セレスティアの剣へ近づいていく。


 鍛冶場の外では、三枚の看板が朝風に揺れていた。


 ふざけた文字。


 不器用な区分。


 けれど、その奥にあるのは、ただ一つ。


 ゴルド・ガルガンドは今、世界で一人のために剣を打っている。


 その一人は、前世で剣聖と呼ばれた女。


 今生では、ハイエルフ王家第1王女。


 そして、鍛冶場公認のバカ姫だった。

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