第41話 剣神、神々の会議へ呼ばれる
白樹の森に、夜が降りていた。
銀の葉が月光を受け、白い幹が淡く輝く。
王宮の古記録庫では、まだ灯りが消えていなかった。
六十一年前の邪神戦争参加者調査。
前世セレスティアがいた王国から届いた記録。
各地の人柱封印の異常。
第二次邪神戦争準備に関する通達。
それらの整理は、夜になっても終わらなかった。
だが、セレスティアは机の前にいなかった。
中庭にいた。
白樹の泉へ続く道の途中。
そこに立ち、夜空を見上げていた。
背には神剣黒星。
左腰には神剣閃白。
足元に影はない。
月光に照らされても、影は落ちない。
それは、もう見慣れたはずだった。
だが、時折、セレスティアは自分がどこに立っているのか分からなくなる。
地上にいる。
家族がいる。
食事もする。
ゴルドに叱られる。
ミレーヌに心配される。
ルシェルに記録される。
それでも、影はない。
虹色の神眼は、世界の理の奥を見ようとする。
剣は神剣となり、言葉を持った。
自分は、以前のハイエルフ王女ではない。
だが、ただの神でもない。
現世神。
世界に生きる者でありながら、神格を得た者。
その立場は、思った以上に難しかった。
黒星が低く言った。
『主よ』
「何です?」
『考えすぎている』
閃白も澄んだ声で続ける。
『休息中に考察を始めるのは、主の悪癖です』
「考えないわけにはいきませんわ」
『考えることと、背負うことは違う』
『主は、すぐ後者になります』
セレスティアは苦笑した。
「手厳しいですわね」
『神剣なので』
『主を正すためです』
「便利な言葉ですわ」
その時、白樹の泉の方角から、風が吹いた。
ただの風ではない。
精霊の風。
それも、白樹の精霊王だけの気配ではなかった。
赤。
黒。
青。
金。
灰。
氷。
風。
眠。
影。
十の森すべての精霊王の気配が、白樹の森へ重なっていた。
セレスティアは顔を上げた。
「精霊王?」
泉の方角が白く光った。
その光は、地上の光ではなかった。
世界の理の境界へ続く門。
かつて、十の試練で見た精霊の道とは違う。
もっと深い。
もっと遠い。
世界の内側と外側の狭間に続く道だった。
黒星が重く鳴った。
『主、これは』
閃白が静かに言う。
『神々の招きです』
セレスティアは、ゆっくりと息を吸った。
「わたくしが、ですか」
白樹の精霊王の声が響いた。
「剣神セレスティア」
セレスティアは、泉の方角へ向かって頭を下げた。
「はい」
「神々の会議へ来るがよい」
その言葉は、森全体に広がった。
王宮の中でも、その声は聞こえた。
アルヴァレイン王が執務室で顔を上げる。
王妃エルフィリアが祈りの手を止める。
ルシェルが記録の筆を落としかける。
ミレーヌが窓辺から中庭を見る。
神々の会議。
それは、本来、地上に生きる者が呼ばれる場ではない。
世界の理の境界にいる神々。
見守るべき立場の神々。
そこに、現世神であるセレスティアが呼ばれる。
それが何を意味するのか、白樹の森にいる者たちは理解していた。
セレスティアは、静かに答えた。
「参ります」
黒星が低く言う。
『我も共に』
閃白が続ける。
『私も参ります』
精霊王の声が響く。
「神剣も共に来るがよい」
王たちが中庭へ出てきた。
王は、セレスティアを見た。
「神々の会議か」
「はい」
「何を話すのか、予想はつくか」
「おそらく、わたくしの扱いについてでしょう」
ルシェルが近づく。
「姉上を、神側の切り札としてどこまで使うか」
「はい」
「そして、神々が姉上にどこまで力を貸すか」
「はい」
王妃が静かに言った。
「気をつけなさい」
「はい、お母様」
「神々の言葉は、重いものです」
「はい」
「けれど、あなたは地上の子でもあります」
セレスティアは、王妃を見た。
「はい」
「神々の会議に呼ばれても、あなたはセレスティアです」
ミレーヌが、セレスティアの手を握った。
「お姉様、神様たちに全部背負わされそうになったら、断ってください」
セレスティアは、少しだけ笑った。
「はい」
黒星が低く言う。
『我が重くなる』
閃白も続ける。
『私が沈黙します』
ミレーヌは真剣に頷いた。
「お願いします」
セレスティアは、妹の頭を撫でた。
「大丈夫ですわ」
ルシェルが言った。
「姉上」
「はい」
「会議の内容は、可能な範囲で記録を」
「神々の会議まで記録しますの?」
「重要です」
「どこまで記録できるか分かりませんわ」
「では、覚えてきてください」
セレスティアは苦笑した。
「努力します」
王は、静かに言った。
「セレスティア」
「はい、お父様」
「神々の前であっても、白樹王家の方針は変わらぬ」
「はい」
「この世界は、この世界の者の手で守る」
「はい」
「剣神セレスティアは切り札であり、世界を支える柱ではない」
「はい」
「神々の力を受けすぎるな」
セレスティアは、深く頷いた。
「承知しました」
王妃が続ける。
「そして、帰ってきなさい」
「はい」
「会議に呼ばれたからといって、境界に残ってはいけません」
「はい」
「あなたは、まだこちらに帰る者です」
「はい」
その言葉は、深く胸に届いた。
神々の会議。
世界の理の境界。
そこに呼ばれるということは、神として扱われるということでもある。
だが、セレスティアは地上へ帰る。
白樹の森へ。
家族の元へ。
ゴルドに叱られる場所へ。
神剣を背負い、食事をし、休むべき時に休む場所へ。
セレスティアは、白樹の泉へ向かった。
泉の前には、白樹の精霊王が立っていた。
その背後に、九つの精霊王の光。
さらに奥に、星のような無数の神々の気配がある。
セレスティアは、泉の前で頭を下げた。
「剣神セレスティア、参ります」
「よい」
白樹の精霊王は、セレスティアを見た。
「恐れるか」
「少し」
「よい」
「よいのですか」
「恐れを知らぬ神ほど危ういものはない」
「はい」
「誇るか」
「いいえ」
「それもよい」
「ただ」
「ただ?」
「緊張はします」
赤樹の精霊王の光が揺れた。
「正直でよい」
黒樹の精霊王が影の中から言った。
「神々の会議で見栄を張れば、影が濃くなる」
セレスティアは微笑んだ。
「影はないのですが」
影樹の精霊王が笑う。
「影がなくとも、心の影はある」
「承知しております」
白樹の精霊王が手を上げた。
泉の水面が、鏡のように広がる。
そこに映ったのは、空ではなかった。
星の海。
根の迷宮。
古い神殿。
世界の理の境界。
神々の会議場。
「行くぞ」
「はい」
セレスティアは、泉へ足を踏み入れた。
水音はしなかった。
身体が沈む感覚もない。
ただ、世界が一枚めくれるような感覚があった。
白樹の森の匂いが遠ざかる。
風の音が消える。
虫の声も、葉擦れも、家族の気配も遠くなる。
その代わり、理そのものの音が聞こえた。
生。
死。
火。
水。
土。
風。
影。
眠り。
記憶。
忘却。
守護。
滅び。
無数の概念が、音にならない音として流れている。
セレスティアは、思わず神眼を開きかけた。
黒星が重くなった。
『主。開きすぎるな』
閃白が澄んで言う。
『ここでは、見えるものが多すぎます』
セレスティアは目を閉じ、視界を第一層へ戻した。
「助かりました」
『当然だ』
『私たちは神剣ですので』
「はいはい」
その返事に、黒星がわずかに不満そうに沈んだ。
閃白は静かに笑ったような気配を返した。
次の瞬間、セレスティアは会議場に立っていた。
そこは、広間ではない。
だが、広間のようでもある。
床は星の海。
柱は世界樹の根。
天井は夜空。
中央には、光の円卓。
円卓の周囲に、神々がいた。
十の精霊王。
竜の神。
山の神。
火炉の神。
海の神。
獣の神。
夜の神。
死者を見守る神。
土地神。
古い王国の守護神。
名を失いかけた小さな神々。
そのすべての視線が、セレスティアへ向けられた。
普通の者なら、立っていられない。
神々の視線。
理そのものの重み。
だが、セレスティアは立った。
影はない。
虹色の神眼は閉じている。
背には黒星。
左腰には閃白。
神剣が、主を支えていた。
白樹の精霊王が告げる。
「剣神セレスティア、参上」
セレスティアは、深く頭を下げた。
「剣神セレスティアと申します」
火炉の神が、最初に笑った。
老鍛冶師のような姿。
炎を宿した槌。
その目は、セレスティアではなく黒星と閃白を見ていた。
「なるほど。これがゴルドの剣か」
黒星が低く応える。
『黒星である』
閃白が澄んで言う。
『閃白です』
火炉の神は、愉快そうに笑った。
「よい。実によい。地上の鍛冶師がここまで打ったか」
セレスティアは頭を上げる。
「ゴルド親方の剣です」
「誇るか」
「はい」
火炉の神は、さらに笑った。
「その誇りはよい」
竜の神が、低く言った。
「剣神セレスティア」
「はい」
「お前は、邪神本体を斬る覚悟があるか」
会議場の空気が重くなった。
いきなり核心だった。
セレスティアは、竜の神を見た。
巨大な竜の影。
山脈そのもののような存在。
その問いに、嘘は許されない。
「あります」
セレスティアは答えた。
「ただし、滅びそのものを否定するためではありません」
神々の気配が揺れた。
セレスティアは続ける。
「滅びが世界の理に必要なものであるなら、わたくしはそれを否定しません」
「では、なぜ邪神を斬る」
竜の神が問う。
セレスティアは、静かに答えた。
「邪神が行っていることは、滅びではなく、冒涜だからです」
その言葉に、灰樹の精霊王がわずかに頷いた。
「死者を眠らせず」
セレスティアは言った。
「魂の座を穢し」
「はい」
「人柱となった者たちの痛みへ触れ」
「はい」
「忘れられた犠牲を利用し」
「はい」
「死を死として終わらせない」
閃白が静かに鳴る。
『それは葬送を拒む理』
黒星が低く続ける。
『砕くべき邪』
セレスティアは頷いた。
「ゆえに、邪神の冒涜を終わらせます」
死者を見守る神が、静かに言った。
「死者のためか」
「死者のためでもあります」
「生者のためか」
「生者のためでもあります」
「世界のためか」
「世界のためでもあります」
「では、お前自身のためか」
セレスティアは少しだけ沈黙した。
そして、正直に答えた。
「はい」
神々が、かすかに動いた。
「前世の肉体を奪われた怒りがあります」
「はい」
「前世の家族を滅ぼされた痛みがあります」
「はい」
「邪神に対する私情があります」
「はい」
セレスティアは、胸に手を当てた。
「ですが、それを世界の正義とは偽りません」
赤樹の精霊王が満足そうに笑った。
「怒りを芯にしたか」
「はい」
白樹の精霊王が言った。
「これが、十の試練を越えた剣神セレスティアである」
海の神が問いかける。
「セレスティア。お前は我らに何を求める」
セレスティアは顔を上げた。
「何も」
会議場が静まった。
海の神が波のような目を細める。
「何も、か」
「はい」
「神々の助力を求めぬのか」
「求めません」
火炉の神が面白そうに見た。
竜の神も沈黙している。
セレスティアは続けた。
「わたくしに神格を注がないでください」
その言葉に、一部の小さな神々がざわめいた。
「黒星と閃白に、直接神の力を注がないでください」
火炉の神が、槌を肩に担いだ。
「なぜだ」
「それをすれば、黒星と閃白はゴルド親方の剣ではなくなります」
火炉の神の目が細くなる。
セレスティアは言った。
「それをすれば、わたくしはこの世界に生きる者の刃ではなく、神々の代行者になります」
「それを望まぬか」
「望みません」
「神々の代行者になれば、より強くなれるぞ」
「強さの問題ではありません」
セレスティアの声は、静かだが明確だった。
「この世界は、この世界に生きる者の手で守らなくてはなりません」
会議場に、言葉が響く。
「わたくしは現世神です」
「はい」
「世界に干渉できます」
「はい」
「だからこそ、最低限の介入にしなければなりません」
白樹の精霊王が、黙って聞いている。
「神々が、わたくしを通じて地上へ過剰に干渉すれば、世界の均衡は崩れます」
「はい」
「地上の者たちは、自ら立つ力を失います」
「はい」
「わたくしもまた、地上のセレスティアではなくなります」
黒星が低く言った。
『主は、神々の剣ではない』
閃白が続ける。
『この世界が最後に抜く刃です』
セレスティアは頷いた。
「わたくしは、世界が届かぬ最後の一点にだけ刃を入れます」
竜の神が問う。
「では、我らは何をすればよい」
「この世界の者たちを支えてください」
セレスティアは即答した。
「直接、勝利を与えるのではなく」
「はい」
「道を示す」
「はい」
「記録を見つけるための夢を」
「はい」
「封印地へ至る兆しを」
「はい」
「鍛冶師の炉が安定するように」
「はい」
「海の民が海底楔へ辿り着けるように」
「はい」
「竜たちが竜脈を整えられるように」
「はい」
「王たちが責任を放棄しないように」
「はい」
「死者の名を、生者が取り戻せるように」
「はい」
「それが、必要な助力だと思います」
死者を見守る神が頷いた。
「生者に名を呼ばせるのだな」
「はい」
「剣神が一括して弔うのではなく」
「はい」
「その地の生者が、その地の死者を取り戻す」
「はい」
「よい」
海の神が言った。
「では、セレスティア。お前は神々から何も受け取らぬのか」
セレスティアは少し考えた。
「受け取るものがあります」
「何だ」
「制限です」
神々が、再び静まった。
セレスティアは言った。
「わたくしが過干渉になりそうな時、止めてください」
黒星が低く鳴った。
『我も止める』
閃白が続く。
『私も止めます』
「もちろん、黒星と閃白も止めてくれます」
セレスティアは続けた。
「家族も、ゴルド親方も、精霊王も止めてくれます」
「はい」
「それでも、わたくしが剣神として逸れそうになった時」
「はい」
「神々は、力ではなく、警告をください」
夜の神が言った。
「夢か」
「はい」
風樹の精霊王が言う。
「風の違和か」
「はい」
死者の神が言う。
「沈黙か」
「はい」
セレスティアは頭を下げた。
「わたくしを強くする祝福ではなく、逸れたと気づかせる兆しをください」
火炉の神が、にやりと笑った。
「面白い剣神だ」
竜の神が低く唸る。
「力ではなく、制限を求めるか」
「はい」
「なぜ」
「わたくしは、放っておくと全部背負おうとするからです」
会議場に、一瞬の沈黙が落ちた。
赤樹の精霊王が笑いをこらえなかった。
火炉の神も笑った。
白樹の精霊王は真面目な顔で頷いた。
「その通りである」
セレスティアは少し恥ずかしそうに目を伏せた。
「そこは否定していただきたかったですわ」
黒星が言う。
『事実だ』
閃白も言う。
『否定不能です』
会議場に、わずかな笑いが広がった。
神々の会議に笑いが起きるのは珍しい。
だが、それは軽さではなかった。
セレスティアが自分の危うさを理解している。
それを、神々が確認した瞬間だった。
白樹の精霊王が、円卓の中央へ進み出た。
「剣神セレスティアの言葉を聞いた」
神々が静まる。
「この者は、神々の代行者となることを拒んだ」
「はい」
「神格の増幅を求めなかった」
「はい」
「神剣への直接干渉を拒んだ」
「はい」
「代わりに、地上の者たちへの道と兆しを求めた」
「はい」
「そして、自らへの制限を求めた」
白樹の精霊王は、セレスティアを見た。
「これをもって、剣神セレスティアを神々の切り札と認める」
竜の神が頷いた。
「認める」
火炉の神が槌を鳴らした。
「認める」
海の神が波を揺らした。
「認める」
死者を見守る神が目を伏せた。
「認める」
山の神。
獣の神。
夜の神。
土地神たち。
消えかけた小さな神々。
すべてが、静かに同意した。
白樹の精霊王は告げた。
「ただし、神々は剣神セレスティアへ直接神格を注がない」
「はい」
「神剣黒星、神剣閃白へ直接力を注がない」
「はい」
「地上への助力は、地上の者たちの手を通す」
「はい」
「剣神セレスティアへの助力は、力ではなく、道、境界標、警告に限定する」
「はい」
「剣神セレスティアは、邪神本体の理へ届く最後の刃として、世界が自ら立った後にのみ振るわれる」
セレスティアは深く頭を下げた。
「承知しました」
その時、火炉の神が一歩前へ出た。
「セレスティア」
「はい」
「ゴルドへ伝えろ」
「はい」
「よい剣を打った、と」
セレスティアは、少しだけ微笑んだ。
「必ず」
「ただし」
「ただし?」
「わしが直接鍛え直したい気持ちを抑えた、とも伝えろ」
黒星が低く鳴る。
『不要』
閃白が澄んで言う。
『我らはゴルドの剣です』
火炉の神は、大きく笑った。
「よい。実によい」
セレスティアも笑った。
「親方が聞いたら、鼻を鳴らしますわね」
「だろうな」
竜の神が、最後に言った。
「剣神セレスティア」
「はい」
「十年後、邪神本体の封印は限界を迎える」
「はい」
「それまでに、世界が立てば、お前は刃として振るわれる」
「はい」
「世界が立てなければ」
セレスティアは、竜の神を見た。
竜の神は言った。
「お前がどれほど強くとも、世界は負ける」
重い言葉だった。
セレスティアは、ゆっくりと頷いた。
「分かっています」
「ならば、待て」
「はい」
「信じろ」
「はい」
「そして、最後に斬れ」
「はい」
神々の会議は終わった。
白樹の精霊王が、セレスティアへ手を差し伸べる。
「戻るぞ」
「はい」
セレスティアは、もう一度、神々へ頭を下げた。
「お招きいただき、ありがとうございました」
世界の理の境界が遠ざかる。
星の海が薄れる。
根の迷宮がほどける。
神々の視線が遠くなる。
次の瞬間、セレスティアは白樹の泉の前に立っていた。
白樹の森の夜。
葉擦れの音。
虫の声。
遠くに王宮の灯り。
地上だった。
セレスティアは、ゆっくりと息を吐いた。
「戻りましたわ」
王たちが待っていた。
王妃が近づき、セレスティアの顔を見た。
「お帰りなさい」
「はい。ただいま戻りました」
ミレーヌが抱きつく。
「境界に残りませんでしたね」
「残りませんわ」
ルシェルが筆を構える。
「会議の内容を」
セレスティアは苦笑した。
「今ですの?」
「重要です」
黒星が言った。
『まず食事』
閃白が続ける。
『報告はその後です』
王妃が頷いた。
「その通りです」
ルシェルは少し迷った。
「では、食後に」
セレスティアは、少しだけ笑った。
神々の会議に呼ばれた。
神々の切り札と認められた。
だが、戻ってきたら食事が先。
それでいい。
それがいい。
自分は地上へ帰ってきたのだから。
その夜、白樹の森の食卓で、セレスティアは温かなスープを飲んだ。
神々の力ではない。
世界の理でもない。
家族が用意した食事だった。
セレスティアは、その温かさを確かめるように、ゆっくり飲んだ。
そして、心の中で神々の会議の結論を繰り返した。
この世界は、この世界の者の手で守る。
剣神セレスティアは、神々の代行者ではない。
最後の刃である。
力ではなく、節度を。
祝福ではなく、警告を。
支配ではなく、信頼を。
セレスティアは、静かに息を吐いた。
十年後。
邪神本体と向き合う時が来る。
だが、それまでは待つ。
世界が立つのを信じて。
鞘の中の刃として。
必要な時にだけ、抜かれるために。




