【最終話】賢者side:いつまでも
「ようこそ、賢者殿。今度は何をやらかしたかの?」
魔王城で待っていたのは、ニヤッと笑みを浮かべる魔王殿。
「すでにミーナから聞いておられるのではないですか?」
「まぁな。どこにいるか案内などしてやらぬので、自力で好きに探すがよい」
魔王殿は笑いながらマントを翻して去っていった。
そう。実はミーナが1人で魔王城へ帰ってくるのは今回が初めてではない。
前回はミーナの癒しの力のことで揉めた。
以前から癒しの力の件で付き合いのあった動物園と植物園から、ミーナに嘱託職員として定期的に通ってほしいとの依頼があった。ミーナは乗り気だったが、私が反対したためと言い合いとなった。
話し合いは平行線になり、ミーナはしばらく魔王城へ帰ってしまい、結局私が折れた。
反対したのはミーナは今もよく王宮に顔を出し、友人ができて交友関係も広がっている上に、屋敷の女主人としての仕事も学び始めていたので、これ以上忙しくなるのはよくないだろうと考えたからだった。
だが、多方面から私がミーナに対して過保護すぎるとの注意を受けてしまった。
ミーナは、いつでも迷うことなく自分の意見を真っ直ぐに私にぶつけてくる。そしてそれが単なる我が儘ではないこともよくわかっている。
だから私達が衝突することは、さほどめずらしいことではない。むしろ下手に遠慮されるより、その方がありがたいと思っているのだが、出て行かれるとさすがに気落ちする。
「ミーナが魔王城へ行っちまうのは、別にお前が嫌になったわけじゃなくて、自分自身の頭を冷やすためなんだってよ」
ミーナがいなくなって落ち込んていた私に勇者がそう教えてくれた。
なぜミーナが勇者には素直な気持ちを明かすのか、少々納得のいかないところではあるのだが、後日メイド頭から勇者はミーナの兄のような役割を買って出てくれていることを聞かされた。若干の嫉妬心がないわけではないが、ミーナにとって心許せる相手は多いに越したことはないだろう。
そんなことを思い出しながら魔道具工房へ向かう。
「午後のお茶休憩まではいたんだがなぁ。ミーナのことだから厨房じゃねぇか?」
親方殿にそう言われて厨房に行くも、どうやら一足遅かったらしい。
「あら、ついさっきまで手伝ってくれてたんですけど、一区切りついたので休憩するよう言ったんですよ」
となると、思い当たるのはあの場所くらいしかないだろう。
南の塔の階段を上っていくと、窓から夕焼けを眺めていたミーナが振り返る。
「ミーナ、なぜメイド服なんだ?」
「お世話になるからには、きちんと働くべきでしょう?」
無表情でそう答えるミーナは、また背を向けて窓の外を眺める。
窓際に近付き、ミーナの隣に並ぶ。城下の町には明かりが灯り始めている。
「メイド服姿のミーナを見ていると、出会った頃のことを思い出すな」
まずは謝るべきなのだろうが、つい思っていたことが口から出てきてしまっていた。最近ではメイド服を着る機会などなくなっていたから、余計にそう思うのかもしれない。
「思えば最悪な出会いでしたよね。私、魔王様の転移に取り残されて手足を拘束されてましたし」
こちらを向かず、景色を眺めながら答えるミーナ。
「ああ、そうだったな」
あれからいろんな出来事があったものだから、なんだかずいぶん昔のことのように思える。
「そんな出会いだったのに、私達が結婚するなんて本当にわからないものですね」
しばらくの沈黙の後にミーナに話しかける。
「私はミーナよりずっと年上だが、完璧な人間なんかじゃない。これからも失敗するだろうし、意見が合わずに衝突することもあるだろう。だが、それでもミーナと一緒にいたいと思う。もちろん私自身も出来る限り気をつけるようにはするから、どうか私のそばにいて欲しい」
私を見上げてにらむミーナ。
「わかりました。でも、身体は大切にしてくれないと本当に困ります」
「そうだな。すまなかった」
そっとミーナの肩を抱きよせる。
私を見上げていたミーナは、ふっと柔らかく微笑んだ。
「賢者様、大好きです。だから、いつまでも2人で歩んでいきましょう」
【完】
最後までお付き合いいただき、本当にありがとうございました。




