日々
王太子殿下と聖女様の結婚の祝賀ムードも落ち着いてきた頃。
王太子妃となった聖女様と一緒に授業を受けることはもうないけれど、時々お茶に招いていただいてお話ししている。
私の授業は現在も継続していて、近隣諸国の歴史や文化など範囲も広がってきた。ダンスや乗馬も引き続き楽しく学んでいる。
王宮でのお泊りも、国王陛下のご都合に合わせて不定期にではあるが続いている。
私の出自が明らかになったことで、王宮に勤める方々は今までは気さくに「ミーナさん」と声をかけてくださっていたけれど「ウィルヘルミナ様」に変わり、態度も畏まったものに変わってしまったことだけは少し寂しく感じる。けれど、これもしかたのないことなのだろう。
でも、楽しい変化もあった。
王宮で開催された王太子殿下主催のお茶会で、王太子殿下の学生時代のご友人の妹さんを紹介していただいた。好きな本が同じということで話が合い、お友達になった。お互いの家を訪問して本の感想を語り合ったり、一緒に書店めぐりをするようになった。さらに彼女のお友達を紹介していただいて、交友関係も少し広がった。初めて出来た同世代のお友達との会話は、とても楽しくて新たな発見もたくさんあった。
賢者様の研究もだいぶ進み、人間界でも継続して使える魔道具の試作品をお屋敷で使い始めている。近いうちに国王陛下へも献上する予定だそうだ。
詳しいことはいまだによく理解できていないけれど、賢者様の術式により魔石へ魔力を補充することができるようになったらしい。ただ量産に向けての課題は山積みで、魔王城へ行くたびに魔道具工房の親方さんと議論や実験を繰り返している。
ある日、国王陛下からお泊りのお誘いがあり、少し疑問に思いながら王宮へ向かう。
なぜ疑問に思ったかというと、いつも晩餐をともにする王太子殿下と聖女様が不在だからだ。お2人は婚儀に関わるさまざまな行事を一通り終え、休養を兼ねた新婚旅行に出かけているのである。行き先は以前私と賢者様が行った海辺の宿と聞いている。
いつものように王宮の奥にある王族のプライベートエリアに入ると、なぜか今まで入ったことのない部屋へ案内された。
その部屋では国王陛下が待っていて、部屋の奥の方には純白のドレスが飾られていた。
「これはそなたの母が着たウェディングドレスだ。当時としては最高級の素材で一流の職人に作らせたもので、定期的に手入れもしてある」
手招きされて間近でよく見てみると、とても手の込んだ刺繍が施されているのがわかる。刺繍の文様にもそれぞれ意味があるらしい。
「そなたが望むなら婚儀の際にこれを着てもよいし、新しいものを作りたければ最高の素材を揃えて最新のデザインで作ってもよいぞ」
「伯父様、私はこれを着たいです!」
迷うことなく答えた。
「わかった。そなたに合わせて補正が必要だろうから、後ほど王宮の者達と打ち合わせするとよい」
微笑む陛下は私の頭をなでてくれた。
「ウィルヘルミナ、幸せになるんだぞ」
「はい!」
準備を重ねて私が18歳の誕生日を迎えて3ヶ月ほど経った頃、私と賢者様は結婚した。
大神殿の中でも比較的小規模な礼拝所。参列者は賢者様の身内の方々と私のお友達と王族の方々。
式では私はお母様が着たウェディングドレスを身にまとい、お父様の形見の剣は賢者様に託し、腰に携えていただいた。こんな形ではあるけれど、両親と歩むことができて嬉しく思う。
結婚して初めて2人きりで過ごす夜。
「ミーナ、私はあえて君を幸せにするとは言わない。幸せは2人で築いていくものだと思うからだ。これからは2人で幸せを作っていこう」
「はい!」
初めて直に触れる賢者様の体温が心地よかった。
次回は5/15(土)に投稿予定です。




