準備
王宮では王太子殿下と聖女様の結婚に向けて着々と準備が進められている。
結婚式とその後のパーティには賢者様とともに出席することになった。初めて公式の場で、パーティの時に私の紹介と婚約も発表される。
私のドレスは王宮の衣装担当者の方々に製作していただくことになり、すでに賢者様も了承済とのことだった。
「お手数をおかけしますが、よろしくお願いいたします」
「国王陛下直々のご依頼ですから、我々も持てる力を最大限に発揮して作らせていただきますわ。気になる点などありましたら、どうか遠慮なさらずにおっしゃってくださいね」
デザインはかつてお母様が好んで着ていたドレスに近いものになるらしい。流行の最先端よりも、そちらの方が嬉しい。
聖女様は忙しい準備の合間に癒しの力の使い方を私に教えてくださっている。
「お忙しいのに申し訳ありません」
「いいのよ。かえっていい気分転換になるしね」
海王様にも言われたけれど、私の癒しの力はさほど強くはない。けれど、動物や植物を癒すのに向いているらしい。
動物や植物相手だから言葉が通じるわけじゃないけれど、なんとなく気持ちが伝わってきて、どこを治せばいいのかがわかる感じがする。
王宮で練習を兼ねて庭園の樹木の不調を治したり、乗馬の授業でお世話になっている馬の脚の不調を治していたら、それがどこからか伝わったようで、王都の動物園や植物園からも時々呼ばれるようになった。
すべての動物や植物が救えているわけではないけれど、原因がわかるだけでも今後に生かせるので助かるらしい。少しは誰かの役に立てていると思うと嬉しくなる。
今日も練習のため枯れかけた鉢植えの植物に癒しの力を与えていたら、突然背後から聖女様に抱きつかれた。
「ど、どうしたんですか?」
「ん~、ミーナで癒されようと思って」
ため息とともにそんな答えが返ってきた。
私が聖女様を癒せるわけじゃないけれど、私と接することで少しでも気が晴れるのなら、いくらでも付き合おう。
「聖女様、忙しくてお疲れなのですか?」
「それもあるけど、今は不安の方が大きいかしらね。本当に私でいいんだろうか?って思ってしまうのよ」
メイド頭さんから借りた小説にもあったけど、結婚前の女性は不安になったりすることがあるらしい。
人生の大きな転機だからなのだろうが、聖女様の場合は王族に嫁ぐわけだから、普通の女性とはまた異なる重みもあるのだろう。
背中から抱きつかれたまま、しばし考えてから話しかける。
「あの、聖女様。その不安を王太子殿下に話されましたか?」
「いいえ。ただですらお忙しいのに、私なんかのことで迷惑をかけたくないもの」
「ダメです!私はちゃんと話すべきだと思います」
私の声に驚いた聖女様が離れたので、立ち上がって聖女様に向き合う。
「私、いろんな方に言われたんです。何かあったら1人で抱え込まずに周囲に相談するようにって。私じゃ聖女様の不安を理解することも難しいかもしれませんが、王太子殿下や国王陛下、それに王宮で働く方々だって聖女様の味方ですよ」
しばらく無言だった聖女様は、正面から私を抱きしめた。
「ミーナ、ありがとう。そうね、黙ってたってわかってもらえるわけじゃないものね。今の不安を上手く説明できるかどうかわからないけれど、まずは殿下に話してみるわ」
その後、数日は王宮での授業がなかったので、賢者様と魔王城へ行ったり買い物に出かけたりしていた。
そしてダンスの授業がある日。
「ミーナちゃん、おはよう!」
王宮に到着して馬車を降りると、なぜか王太子殿下が待っていた。
「おはようございます!こんなところで、どうなさったのですか?」
「ミーナちゃんにお礼を言おうと思ってさ。彼女のこと、気遣ってくれて本当にありがとう。あれから2人で話し合ったんだ。まずは、どんなに忙しくても2人の時間を作ることにしたよ」
笑顔の王太子殿下。
「よかったです」
つられて私も笑顔になる。
「これ、お礼。王宮の菓子職人に作らせたんだ。よかったら食べて」
ほんのり甘い香りがするかごを手渡された。
「ありがとうございます!」
「じゃ、ダンスの授業がんばってね」
殿下は私の頭をなでて去っていった。
お2人の結婚式まであと少し。
私のお披露目も待っていて、今日はそのための打ち合わせもある。
あわただしい日々はまだ続くけれど、なぜか楽しい気持ちで過ごせている。
次回は5/9(日)に投稿予定です。




