欠片
夕食の時刻が近付き、案内された部屋は思っていたよりもこじんまりとしていた。
「待ってたわよ、ミーナ」
「ミーナちゃん、ようこそ!こんな小さい部屋だから驚いたでしょ?」
国王陛下だけでなく、王太子殿下とその婚約者である聖女様がすでに席についていた。
「ウィルヘルミナの席はここだ」
陛下がご自分のすぐお隣の席を指差す。
「え、そこでよろしいんですか?」
「ウィルヘルミナは今日の主賓だからな」
ニヤッと笑う陛下の隣に座る。
準備が整うと陛下がグラスを掲げる。
「ウィルヘルミナの初めての王宮でのお泊りを祝して、乾杯!」
「「「 乾杯! 」」」
いいのかな?そんな乾杯で。
その後は食事をしながら和やかに話が進む。小さい部屋なのは、会話のしやすさを優先したかららしい。
夕食後は全員で部屋を移る。
陛下と殿下はお酒とおつまみ、私と聖女様はお茶とお菓子を楽しむ。
夕食の席と同様にざっくばらんの話が展開されていて、話があちこちに飛ぶし、遠慮のないツッコミも入る。
こういうのが家族っぽい会話なのかもしれないな、と思った。
お酒が入って少し機嫌のよさそうな陛下に、前から疑問に思っていたことを聞いてみる。
「陛下…じゃなかった、伯父様はどうして私を『ウィルヘルミナ』と呼ぶんですか?ミーナと呼んでくださってもかまいませんのに」
「両親がそなたのことを思ってつけた名であろう?だから、誰か1人くらいはその名で呼んでやってもよかろうと思ってな」
照れを隠すようにグラスをあおる。
「ありがとうございます…伯父様」
その後も陛下が比較的忙しくない時に私の王宮お泊りはたびたび行われた。
そのたびに陛下は夕食後のくつろぎの時間に、お酒を片手に私の両親のことを話してくれる。
王宮で飾られている肖像画は優美な貴婦人にしか見えないのに、実はかなりのおてんばだったお母様のこと。
お母様と護衛騎士だったお父様が初めて対面した時のこと。
お父様に恋したお母様が、プレゼントするために初めてお菓子作りに挑戦した時のこと。
結婚式の時のこと。私が生まれた時のこと。
そんな話を聞くたびに、私の中の何かわからないけど欠けている部分が少しずつ埋まっていくような気がした。
両親が出会ったから今の私がある。
そして賢者様と出会った。
考えてみれば、私は賢者様がこれまでどう生きてきたか、ほとんど知らない。
これから少しずつでも知っていけたらいいな、と思う。
次回は5/7(金)に投稿予定です。




