面影
国王陛下との約束どおり、時折泊りがけで王宮へうかがうことになった。
ここ最近の王宮は、王太子殿下と聖女様の結婚に向けて、準備であわただしいながらも明るい雰囲気で満ちている気がする。
初めての王宮でのお泊りの日。
国王陛下と侍従さんに連れられ、以前何度か招かれた談話室よりさらに奥へと向かう。
やがて木製の扉の前で立ち止まった。
「ここから先は完全なプライベートエリアだ。ゆえに陛下と呼ぶことを禁じるからな」
「えっと、それではなんとお呼びすればよろしいのでしょうか?」
「好きなように呼んでかまわんが、とりあえずは伯父様とかでいい。ああ、それから話し方も敬語はいらんぞ」
鍵を開けてドアの向こうへ進む。
各部屋を説明されながら進んでいき、一番最後に案内されたのは2階の一番奥の部屋だった。
「ここがそなたの泊まる部屋だ」
淡い花柄の壁紙にワインレッドのじゅうたん、そして白で統一された家具。いかにも女性のための部屋という感じだ。
「実はそなたの母が結婚するまで暮らしていた部屋だ。一部修繕しているところもあるが、見た目は当時とほとんど変わっていないな」
「そうなんですか…」
お母様はこんな素敵な部屋に住んでいたんだなぁ。
「いずれ息子と当代の聖女の間に子供ができたら、ここを子供部屋にすることになるだろう。内装や家具は好きなようにさせるつもりだから、昔の面影を残す今のうちにそなたに見てもらい、出来れば使って欲しかったのだ」
「ありがとうございます、伯父様」
泊りがけというのはそういう理由だったのか。
「さて、この部屋で少し休憩するといい。また後で呼びに来るからゆっくりしてくれ」
そう言い残して陛下と侍従さんは出て行った。
窓からは庭が見える。たぶん王族しか見ることのない庭なのだろう。
王宮の庭は、どこもレイアウトや木々の配置など工夫が凝らされているのが素人の私にもわかる。だけど、ここの庭はちゃんと手入れはされているけれど、なんだか自然に近い感じがする。
若かりし頃のお母様は、この部屋から庭を見て季節の移ろいを感じていたのだろうか。
そして日々どんなことを思って暮らしていたのだろうか。
窓の近くには白いロッキングチェアがあったので座ってみる。以前読んだ小説に出てきたので知っていたけれど、実物を見るのも座るのも初めてで、最初はちょっとドキドキした。
ロッキングチェアを揺らしながら再び窓の外を見る。
お父様は護衛騎士だったと聞いている。
ということは、王宮はお父様とお母様の出会いの場所でもあった、ということだろう。
どんな風に出会って、どんな風に想いをはぐくんでいったのだろうか。
今はもう直接聞くことはかなわない。
陛下…じゃなくて伯父様から少しでも話を聞くことができるといいな。
次回は5/5(水)に投稿予定です。




