報告
しばらく王宮での授業を休んでしまったので、王宮の皆さんと国王陛下へご挨拶に伺う。
賢者様が同行を申し出てくれたけれど、私1人で行くことにした。
きっと賢者様なら上手く説明してくださるだろうけど、私自身の言葉でちゃんと説明したかったから。
一通り挨拶してまわり、最後に王族のプライベートエリアにある談話室に通される。
国王陛下はすでにいらっしゃっていた。
「このたびは私のわがままでしばらく授業を休んでしまい、大変申し訳ありませんでした」
侍従さんやメイドさんもいるので、わがままの理由はあえて口にしない。
「うむ。無事に帰ってきたようでなによりだ。賢者から旅の詳細な報告は受けているので、ここでの説明は不要だ。今後については当代の聖女も交えて相談して決めようと思う」
手にした封書を見せる陛下。
力は弱いけど聖女ということになったので、いろいろと変化があるのかもしれない。
封書をテーブルの上に置く陛下。
「それで、そなたから何か話があるとのことだが?」
「はい」
一呼吸おいて真っ直ぐに陛下を見つめて話し出す。
「私、賢者様のことが好きです。だから、これからは2人で歩んでいきたいです」
驚いた表情になる陛下。しばらくの沈黙の後、私に語りかける。
「そなたはまだ若い。人生を決めるには少し早いのではないか?」
「いいえ。もう迷いはありませんし、私の選択は間違っていないと思います」
陛下は大きなため息をついて苦笑いした。
「まったく、そういうところは本当にそなたの母にそっくりだな。こうと決めたら一直線だ」
「婚約や婚姻に関しては2人の意志を尊重するので認めよう。ただし、いくつか条件がある」
「何でしょうか?」
難しいことじゃないといいけれど。
「まず、婚姻は18歳を過ぎてからとすること。そなたはまだ若いし、まだ学ぶべきこともある。いろんな経験もしてほしいと考えている」
仮婚約が決まった時点で18歳という話が出ていたから、それに関しては素直にうなずく。
「それから、もうすぐ行われるうちの息子と当代の聖女の結婚披露のパーティで、そなたのことを公表する。それと同時に賢者との婚約も正式に発表する。賢者というのは、この国というか人間界において特別な立場だ。その相手の身元がはっきりしないのはよくなかろう。また、賢者の伴侶とすることで、そなたに対する他からの干渉も防げるであろう」
納得してうなずく。
「そして、そのパーティで一番最初に私とダンスを踊ること」
子守唄のオルゴールをいただいたお礼として、そんな話をしたことを思い出す。
「そなたの最初のダンスの相手を務めるという約束をしておったであろう。まぁ、それだけでなく、私がそなたの後ろ盾であることを知らしめる意図もあるがな」
そう言われて少し考える。
「お話はわかりました。ただ、賢者様と相談してからお返事してもよろしいでしょうか?」
「かまわん。ああ、それからもう1つ条件がある。結婚までマナーやダンスの授業以外でも王宮へ来る機会を増やすこと」
「それはなぜでしょうか?」
「そなたの父や母についてじっくり話して聞かせたいと前々から思っていた。そのための時間が欲しい。昼間は忙しくてなかなか時間が取れぬが、夜ならば比較的まとまった時間が作れる。だから泊りがけで来るといい。もうすぐ婚姻の儀を迎える当代の聖女は準備でたいそう忙しくしておるが、そなたがいればよい気分転換になるであろうしな」
そういうことならば喜んで引き受けよう。
「はい、かしこまりました」
後日、改めて国王陛下と賢者様の話し合いが行われたのだが、決着に至るまでずいぶんと時間がかかったらしい。
その理由は、私の公の場での最初のダンスをどちらが踊るかで揉めたから。結局、国王陛下ということに決まったそうだが、子守唄のオルゴールをいただいたお礼の約束が決め手になったとか。賢者様、ごめんなさい。
国王陛下は、王妃様を病で亡くしてからはダンスを踊ることは一度もなかったらしい。
その陛下が私と踊るということはそれだけ重い意味があり、周囲への影響も大きいということなのだろう。
次回は5/3(月)に投稿予定です。




