賢者side:帰還
ミーナが海王殿に連れられて魔王城に帰ってきた。
顔色もよさそうで安心する。
「おかえり、ミーナ」
「ただいま戻りました」
抱きしめようとしたのだが、ミーナが一歩下がったことに気づいて思いとどまる。
「あ、あの!先に魔王様とお話してきていいですか?」
「ああ」
ミーナは魔王殿の私室へと入っていった。
ただ待つのもなんなので、魔道具工房へ移動して資料に目を通すものの、何も頭に入ってこない。
魔王殿といったい何を話しているのか?
私に話したい大事なこととは何なのか?
私達の今後に関わることであることは間違いないだろう。
「おや、賢者殿はここにおったのか」
あれからどれくらい時間が経っただろうか?
魔道具工房に現れたのは魔王殿ただ1人。
「ミーナはどうしました?」
魔王殿が窓の外を指さす。
「少し気持ちを落ち着かせたいというのでな、ミーナのお気に入りの場所である南の塔へ転移させてやった。賢者殿がこれから歩いていく間に気持ちの整理もできるだろうから行ってやるといい」
「ミーナと何を話されたのですか?」
「それは私からは言えぬな。ミーナに直接聞くといい。ほら、さっさと行かんか」
私は魔道具工房から廊下へと押し出された。
南の塔まではそれなりに距離があり、しかも高い塔は階段しか上がる手段がない。
体力がないわけではないのだが、思っていたより時間がかかってしまった。
最上階まで上がるとミーナの後ろ姿が見えた。窓から外を見ているらしい。
「ミーナ」
しばらく躊躇したが、思い切って声をかけると、振り返ったミーナが無言で手招きをするので、並んで窓の外の景色を眺める。
「これは壮観だなぁ」
すぐ下には魔王城の庭や建物があり、城下町のはるか向こうには険しい山々も見える。空には明らかに鳥ではない何か大きな生物が飛んでいる。
「すごいでしょう?ここ、お気に入りの場所なんです」
しばらく黙って景色を眺めていたが、ミーナが口を開く。
「私、海王様に『魔素に耐えられる身体になったら魔王様のそばにいられるな』と言われて、びっくりしちゃったんです」
やはりそのことだったか。
私は最初からそのことに気づいていた。おそらく魔王殿も気づいていただろう。
だが、あえて何も言わなかった。
実現可能な状況になってから、ミーナ自身が決めるべきだろうと思っていたから。
「びっくりしたのは、そんなことを全然考えていなかった自分に驚いたんです。以前はあれだけ魔王様のところに帰りたいって思ってたはずなのに」
あいかわらず景色を眺めるミーナの横顔を見つめる。
「人間界へ移り住んで、いろんな人と出会って、いろんな体験もしました。それはいつでも賢者様が一緒でした。加護を受けて魔界でも過ごせるようにしようと思ったのも、賢者様の役に立ちたかったからです。海王様のお屋敷に行ってからも、賢者様のことばかり考えてたんです」
窓の外を見ていたミーナは身体の向きを変え、私を真っ直ぐに見る。
「私、賢者様のことが好きです。だから一緒にいたいです。これからもずっと」
私はミーナを抱きしめる。
「私もいつでも真っ直ぐなミーナのことが好きだ。もちろん一緒にいたいと思う。だが、魔王殿のことはいいのか?」
すぐそばで私を見上げるミーナ。
「さっき魔王様とお話ししました。子供はいつか巣立つものだから気にするなって言われました。それに喧嘩して賢者様のことが嫌になったら、いつでも魔界へ帰ってくればいよいではないか、だそうですよ?」
ミーナが笑うので、思わず苦笑いを返す。
「できるだけそうならないよう、気をつけるとしよう」
抱きしめていたミーナを解放し、彼女の前でひざまずく。
「ここで改めて告げよう。ミーナ、私は貴女を愛している。どうかこれからの人生を私とともに一緒に歩んでほしい」
私が差し出した手にミーナが手を添える。
「私でよければ、喜んで」
ミーナの手の甲にキスを落とし、立ち上がって抱きしめて小さな唇にも軽いキスをする。
真っ赤になったミーナもかわいい。
「さて、魔王殿に挨拶してから帰ろうか、私達の家へ」
「はい!」
2人で塔の階段を降りていく。
「本当ならミーナを抱きかかえて降りたいところなのだが、塔の階段は狭いし、私も体力的に少々厳しそうだな」
思わず本音をもらすと、ミーナが笑っていた。
「2人で一緒に歩む方が私は嬉しいですよ?」
「そうか、それもそうだな。ありがとう、ミーナ」
「どういたしまして」
次回は4/29(木)に投稿予定です。




