海の民
夕食後、部屋を移動して海王様とお茶を飲む。
窓の外には月が輝いている。
海王様は海の民について何も知らない私に説明してくれた。
「遠い昔には人間界とも交流があったが、一部の人間達からは不老不死の一族とみなされ、その秘密を探るべく攫われたりすることもあったらしい。実際には不老不死ではないんだが、それでも人間に比べればはるかに長寿ではあるな」
「そうなんですか」
だから今は人間界と接触しないようにしているのか。
「海の民が長寿なのは、多少の差はあるが誰しも癒しの力を有するからだ。人間界の聖女くらいの力を持つ者もめずらしくはないな」
それってすごいことなのでは?
そして海王様のお屋敷に来てから疑問に思っていたことを聞いてみる。
「あの、海王様。お聞きしたいんですけど、海の民の方々はみんな紫色の瞳なのですか?」
世話係のお2人や廊下ですれ違った人達も、みんな紫色の瞳だったのだ。
「そうだ。色の濃淡の差はあるが紫色しかいない」
海王様はお茶のカップをテーブルの上に戻す。
「実はお前をこの屋敷に受け入れることを決めたのは、その瞳の色もあってのことだ。おそらくお前の祖先に海の民がいたのだろうな。夜の浜辺でお前と初めて会った時は魔王の魔道具が発する気でわからなかったが、今はかすかに海の民の気を感じる」
自覚は全然ないけれど、海王様が言うのならそうなのかもしれない。
お屋敷の使用人の方々がみんな私に好意的なのもそのせいなのだろうか?
そういえば国王陛下や王太子殿下は紫の瞳ではないけれど、年齢のわりにはとてもお若く見える。もしかして海の民の血筋の影響があるのだろうか?いつか国王陛下に聞いてみようかな。
「お前に癒しの加護を授けると言ったが、実際にはお前の中に眠っている海の民としての力を呼び起こし、少しその器を広げてやるということになる」
「わかりました」
私がうなずくと、海王様は立ち上がって私の頭に触れる。
「この分なら明後日くらいにはやれそうだな。俺は明日は不在だが、ここでゆっくり過ごすといい」
「はい、ありがとうございます」
翌日、海王様は朝から不在だった。
部屋に運ばれた朝食を食べ終えてから図書室へ向かう。
「ミーナ様、図書室へようこそ。もしお読みになりたいものがあればご案内しますので、遠慮なくお声掛けくださいませ」
図書室内にいた海の民の男性に声をかけられる。他の使用人の方々よりだいぶ高齢に見える人だ。
「えっと、魔石や魔道具に関する本はありますか?それから、お料理に関する本があったら見てみたいです」
少しでも賢者様のお役に立てるよう、少しでも魔石について勉強しておきたかった。
お料理の本は、昨日の夕食で見たことのないものがいくつかあったので少し気になっていたから。
「かしこまりました。では、そちらのソファーにお掛けになって、少々お待ちくださいませ」
丁寧なお辞儀をして本棚の方へ向かっていく。
しばらくすると海の民の男性は何冊かの本を持ってやってきた。
「まず魔石に関する本が1冊、魔道具に関する本が3冊ですね。それから料理に関する本はたくさんございますので、とりあえず海の民独自のものを2冊ほどお持ちしました」
次々とテーブルの上に置かれる。
「ありがとうございます!」
「いずれも図書室から持ち出してもよいものばかりですので、ご自分のお部屋でもサロンでもお好きな場所でお読みください」
「はい。それではお借りしていきますね」
受け取った本を部屋に持ち帰る。
パラパラとめくって一通り中身を確認し、料理の本を1冊持ってサロンへ向かう。昨夜、海王様とお茶を飲んだ部屋だ。魔石と魔道具の本はちょっと難しそうだから後回し。
サロンのソファーに座って本を開くと、世話係の海の民の女性がお茶とお菓子を持ってきてくれた。このお菓子も少し変わった味がするけど、なぜかつい手が伸びてしまう。
賢者様、今ごろ魔王城でどうしてるかな?
魔道具工房の親方さん達と仲良くやってるかなぁ?
次回は4/25(日)に投稿予定です。




