問題
賢者様の研究は、魔道具工房の親方さんの助言により少しずつ進んでいるらしく、魔王城へ行く機会も増えた。
最近では議論だけでなく実験も行っている。議論は難しくてついていけないけれど、実験を見るのは楽しいのでいつもじっと見ている。
ただ、ここにきて問題にぶつかっている。研究というより環境の方で。
魔界の魔素は今の私にとって身体によくないもので、一度魔界に行くと次に行くまでに日を空けねばならない。現状では週に1度のペースといったところだろうか。
でも、強い加護を持つ賢者様ならば魔素を気にする必要はない。だから賢者様お1人だけでも行けるように魔王様にお願いしてみたら認めてくれたのだが、当の賢者様がそれをよしとはしなかった。
「魔王城へ行くのは、やはりミーナがいてこそだろう」
「でも、私では専門的な話にはついていけないですし…」
賢者様が首を横に振る。
「確かにミーナは専門的な知識があるわけじゃない。でも、だからこそ見えてくるものがあると思う。目線が違えば見えてくるものも異なる。そこから新たな発見があるかもしれない」
そういえば実験の合間に私がふと疑問に思ったことを聞いてみると、そこから新たな議論が始まることがある。
「それに研究のためだけではないんだ。ミーナは魔界と人間界との架け橋だと私は思っている」
「架け橋、ですか?」
うなずく賢者様。
「そう、ミーナは人間界と魔界の両方を知っている。それぞれを知るからこそ、その知識をいい方向に生かしていければと考えている」
そうか、今はたいしたことはできないけれど、私にも何かできることがあるのかもしれない。
夜、寝る前に1人で考えてみる。
やっぱり魔界へ行く機会をもっと増やしたい。そうすれば賢者様だってもっとたくさん実験できるはず。
翌日の夜、さっそく通信の魔道具で魔王様に相談してみた。
「残念ながら私に出来ることはもう思いつかなんだが、他にも話を聞いてみるのでしばし待つとよい。だが、あまり期待はするなよ」
「はい、よろしくお願いします」
そうだよね。魔王様でどうにか出来るのなら、とっくに何かやってくださってるはずだもの。
次に魔王城を訪れた際、魔王様に声をかけられた。
「ミーナ、それから賢者殿。帰る前に少しばかり話があるので、私のところへ寄っていってほしい」
「はい!」
「かしこまりました」
私と賢者様は魔王様に返事して、いつものように魔道具工房へ向かった。
魔道具工房での実験作業の後、魔王様のプライベートエリアにある談話室に通された。
「ミーナから相談を受けた魔素を気にせず滞在できるようにする件だが、まず残念ながら私の力では無理だ。だが我が伴侶たる海王に尋ねたところ、方法はあると答えた」
え、海王様?
「それはどのような方法でしょうか?」
賢者様が問いかける。
「簡単に言ってしまえば、海王がミーナに加護を授けることだな」
「「 加護?! 」」
思わず賢者様とかぶってしまった。
「海王が授けるならば癒しの加護だろうな」
「それは…癒しの加護を持つということは、聖女になるということでしょうか?」
私にはよくわからない話になってきたので、ここは賢者様におまかせして聞く側にまわるしかなさそうだ。
「そういうことになるが、いつぞやここまで来たそなたの仲間である聖女と比べればだいぶ弱くはなるだろうな」
「どういうことでしょうか?」
魔王様がお茶を口にしてから再び話し始める。
「そなたもそうであろうが、人間で加護を持つ者はたいてい生まれついてのものだ。心身の成長とともに加護の器も大きくなっていく。だが、成長してから加護を授ける場合には大きな器は作れず、その後の成長もあまり期待できない。ゆえに加護持ちになれたとしても力は弱いということだな」
「加護としては弱くても、魔素に対抗できうる身体にはなれる、ということでしょうか?」
「そういうことだな」
うなずく魔王様。
「でも、ミーナには魔王殿が授けた言語の加護がありましたよね?」
「あれは身体に影響を及ぼさぬ軽い加護だ。本当は私でも身体に影響を及ぼす加護を授けられないこともないのだが、いかんせん攻撃に適したものばかりでな。ミーナには向いておらぬであろう」
攻撃に適した加護ってなんだろう?勇者様みたいになるのかな?
「私としてもミーナには平和に暮らして欲しいと考えております」
そう言う賢者様に魔王様は深くうなずいた。
次回は4/15(木)に投稿予定です。




