1人
「魔王様、お久しぶりです!」
魔王様に連絡を取ってから数日後、転移の魔法で魔王城に召喚してもらってすぐに魔王様に抱きついた。
「ミーナ、待っておったぞ。風邪もすっかりよくなったようでなによりだ」
優しく頭をなでてくれる魔王様。
「ご心配をおかけしてしまい、大変申し訳ありませんでした」
魔王様から離れ、賢者様に持ってもらっていた袋を魔王様に手渡す。
「あの、これ、ハーブのシロップのお礼です。本当にありがとうございました」
「いちいち気にせずともよいのに。だが、ありがたく頂戴しておこう。今日は魔道具工房へ行くのだったな。工房の連中も楽しみに待っておるようなので、早く行ってやるとよい」
「はい!ありがとうございます」
「魔王殿、こちらの願いに応じて魔王城へ召還していただいたこと、感謝申し上げます」
賢者様は魔王様に一礼する。
「気にすることはない。我もミーナに会いたかったしの。専門的なことは我にもわからぬ部分が多いが、実りある話し合いになることを願うとしよう」
「ありがとうございます」
魔王様は執務室へと戻っていかれた。
賢者様を連れて長い廊下を進み、別棟にある魔道具工房へと向かう。
「ミーナ、先に言っておくが、もし話が専門的になって飽きてきたりしたら遠慮せず席をはずしてかまわないからな」
「わかりました」
魔王城へ来る前、今日話す内容を賢者様が私にもわかりやすいように噛み砕いて説明してくれたけれど、それでもついていけない部分が多かったので、たぶんそうなると思う。
「おう、ミーナ!賢者殿もよく来たな」
魔道具工房の親方さんが出迎えてくれた。
「ご無沙汰しています!これ、手作りのクッキーです。皆さんで召し上がってくださいね」
「おう、ありがとよ!」
親方さんの後ろに控えていたお弟子さんにクッキーが入った袋を手渡した。
別のお弟子さんがいつもの少し甘みのある薬草茶を出してくれる。
「この度はこちらの願いに応じていただき、感謝申し上げます」
賢者様が親方さんに頭を下げる。
「堅苦しい挨拶は抜きでいいさ。俺も興味があったしな。さて、さっそく本題に入ろうか」
…申し訳ないけれど、賢者様と親方さんの話についていけなくなるのは思っていた以上に早かった。
賢者様に目で合図をしたら小さくうなずいてくれたので、1人で工房を出る。
どこへ行こうか迷ったけれど、ふと思いついて南の塔の階段を上がっていく。
かつては見張りが常駐していたそうだが、現在の魔王城は結界と各種魔道具により強固に守られているそうで、今は誰もいない。
塔の最上階からは城下の町並みと遠くの山並みがよく見える。そろそろ日も傾き、夕焼け空が広がり始める。ほどよい風も吹いていて気持ちがいい。
魔王城にいた頃も時々ここへ1人でやってきた。
なんとなく1人になりたい時や、気持ちが沈んでいる時、そしてわけもなく不安になる時。
魔王様やお城で働く皆さんはいつでも私にやさしかった。
だけど、時々ほんのささいな出来事が不安を誘い出してくる。
私はたいしたことも出来ない子供で、魔界では誰もが持つ魔力がまったくなくて、姿も魔族の誰とも違う存在だと気付かされる。
移り住んだ人間界は、魔力がないのが普通で、魔界のようにさまざまな種族がいるわけじゃない。だけど、わからないことやできないことがまだまだたくさんある。
学ぶことは楽しい。けれど、いつか賢者様と対等に話せるくらいになる日なんて来るのだろうか?
「ミーナ、こんなところにいたのか」
声の主である魔王様は塔の前に浮かんでいた。
「賢者殿達がそなたがなかなか戻ってこぬので心配しておるぞ。そなたは時々ここへ来ておったことを思い出したので来てみたら、本当にいるとはなぁ」
気がつけば夕焼け空から夜空に変わりつつある。
「ご、ごめんなさい。考えごとをしていて気付きませんでした」
「まぁよい。さぁ、帰るからこちらへおいで」
空中で両手を広げる魔王様。
子供の頃と同じように、南の塔の最上階にある窓から迷うことなく飛び出して、魔王様に抱きかかえられる。
下を見ると、地上では賢者様や親方さん達がこちらを見上げている。
「さて、少しだけ空の散歩をしてから戻るか」
「はい!」
魔王様と空を飛ぶのは久しぶりだ。
「ミーナ、もし悩みや迷いがあるのなら1人で抱え込まなくてもよいのだからな。私でも賢者殿でも遠慮なく話すといい」
「はい、魔王様。ありがとうございます」
夕暮れ時の空の散歩は楽しかったけれど、地上に戻ったら賢者様にがっつり叱られた。
「あんな高い塔の窓から飛び出すなんて…こちらの心臓が止まるかと思ったぞ!」
「ご、ごめんなさい」
そうか、普通はやらないよね。
次回は4/13(火)に投稿予定です。




