初仕事
「ミーナから見て左側が過去の賢者殿が自身の研究をまとめたものだ。だが、残念ながら未完で終わっている」
左側は紙の束を糸で丁寧に綴じて本のようになっているものが数冊。手にとって開いてみるときれいな文字で丁寧に書かれているが、どうやら専門用語が多いようで簡単には理解できそうにない。
「そして右側がその研究の資料となったと思われるもので、描かれている図形などから実験結果の走り書きのようなのだが、ほとんどが読めない文字で解読が進んでいない。だが、書かれている日付から未完のその先があるのかもしれないと考えている」
右側は大きさもまちまちな紙の束の山。
なるほど。ここで私の言語の加護の出番ということなのだろう。
「それでは、まず私は右側の資料の解読をお手伝いすればよい、ということでしょうか?」
「そうなんだが、まずは読めるかどうか確認してもらいたい」
右側の書類の山の一番上にあったメモらしき紙を手に取る。
ちゃんと読めるけれど、綴じた研究結果と同じ人が書いたとは思えないくらい文字が違う。でも、わずかな癖は共通しているようだ。気を抜くとメモのような文字になるのかな?
何枚かメモに目を通してみたけれど、はたしてこれってどうなんだろう?
「あの、これって本当に研究の資料ですか?」
「どういうことだ?」
不思議そうな顔をする賢者様。
「ちゃんと読めるんですけど、これはこのメモが書かれた日の食事内容のようですね」
「は?」
賢者様がヘンな顔をしている。
他のメモも手に取って読んでみる。
「こっちは照明の魔道具の使い方、そしてこれは魔界のお酒の分類表ですね。人間界にはないものに印がついてます」
他のメモにも目を通していると賢者様に制された。
「ミーナ、すまないがちょっと待ってほしい。そもそもここに書かれている言語は何なのだ?」
「えっ?この国の言葉ですよ。ものすごく癖が強い字ではありますが」
賢者様が半ばあきれたような表情になった。
「ミーナの言語の加護は悪筆にも通用するのか。王宮に知られたら欲しがる部署が多そうだな」
なんで王宮?
私が不思議そうな顔をしていることに気付いた賢者様が苦笑しながら説明する。
「王宮には悪筆で有名な人物が何人かいるのだが、揃いも揃って高い地位だったりするので部下達がいつも困っている」
王宮の仕事って、なんだか大変そうだなぁ。
「それは置いておくとして、ミーナにはまずその資料の山を魔道具や魔石に関するものとそれ以外に分けて欲しい。判断がつかないものは一旦除けておいて、あとで私と一緒に見直せばよいだろう」
何はともあれ、私の初仕事だ。
「わかりました!」
次回は4/7(水)に投稿予定です。




