歌詞
風邪もようやく治り、お医者様からも許可が出てようやく王宮での授業を再開できることになった。
とはいっても、復帰初日はお見舞いのお礼を言ってまわるだけで終わってしまったけれど。
国王陛下にもお礼を伝えたいと賢者様を通じて連絡を取っていただいたところ、復帰3日目にお会いできることになった。
通されたのは王族のプライベートエリアにある談話室。
侍従さんとメイドさんが控えているけれど、ソファーに座るのは私と国王陛下の2人きり。
「ウィルヘルミナ、もうすっかり元気になったようでなによりだ」
「はい、おかげさまで。それから大変素敵なお見舞いの品をいただき、本当にありがとうございました」
陛下に頭を下げる。
「うむ。気に入ったか?」
「はい。とても素敵な音色のオルゴールだったのですが、1つお伺いしたいことがございます」
「何だ?」
「あのオルゴールが何の曲か知りたいのです。賢者様のお屋敷の方は誰も知らないとおっしゃっていたのですが、熱が出て伏せっている時に夢の中であの曲を聴いたのです。澄んだ女の人の声で、歌詞もなんとなくですが覚えています」
国王陛下が目を見開く。しばらくの沈黙の後、陛下が口を開いた。
「ウィルヘルミナ、すまぬが私の隣に座ってもらえるか?」
ご自分が座るソファーをポンポンとたたく。
よくわからないけれど、言われるままに陛下の隣に座る。
「すまぬが、あの歌がどんな歌詞だったか歌ってみてくれるか?」
「え?」
予想外の事態にとまどう。
人前で歌うのは経験がないので恥ずかしかったけれど、ここにいるのはほんの数人だし、すぐ隣に陛下がいるから小さい声でも大丈夫だろうと、開き直って歌い始めた。
歌い終えると、隣に座る国王陛下が私の肩をそっと置いて静かに話し始めた。
「賢者達が知らぬのももっともな話で、その歌は王家にのみ伝わる子守唄だ。遠い昔、王家に嫁いできた聖女が自分の子供達に作った歌と伝わっておる。歌詞もそなたが歌っていたもので間違いない。おそらくそなたの母が歌っていたものが頭の片隅に残っていたのであろうな」
驚いて国王陛下の顔を見上げる。
「あのオルゴールは王家の女性に渡すもので、当代の聖女と息子の結婚が決まった時点で職人に命じて作らせていた。製作途中でそなたの存在が判明し、追加で作らせたのだ」
王室御用達の職人ともなれば、小箱の細工が緻密だったのも納得がいく。
「そうだったのですか」
「当代の聖女には結婚した後に息子から手渡すことになっておる。そして、これに関してそなたに頼みたいことがある」
「何でしょうか?」
「そなたから聖女に歌詞を伝えてほしいのだ。もちろん私や息子は知ってはいるが、これは王家の女性が伝える方がよいように思うのでな」
私がお母様から伝えられたものを聖女様に伝える。とても大事なお役目をいただいたようだ。
「かしこまりました。時期がまいりましたら必ず聖女様にお伝えいたします」
陛下の目を見て答える。
「うむ。しっかり役目を果たせよ」
陛下はそう言って優しく微笑んでくださった。
「そしてそなたにもう1つ渡したいものがある」
侍従さんが陛下に布で包まれた棒状のものを差し出す。
「そなたにこれも受け取って欲しい」
陛下が布を取り去ると一振りの剣が出てきた。
「これはそなたの父が長年所持していたものだ。定期的に手入れはしてあるが、あくまでそなたのお守りとして持っていてほしい。ああ、そなたは剣を習っているそうだが、これは軽々しく使わぬようにな」
手渡された剣は見た目以上にずっしりと重く感じた。
「ありがとうございます。大切にいたします」
侍従さんが剣と包んでいた布を持っていき、きれいに包み直してくれた。
隣に座る陛下が私の頭をなでる。
「そなたとはなかなかゆっくり話す機会もないが、困ったことや悩みごとがあれば遠慮せずに相談して欲しい。私はこの国を統べる者ではあるが、そなたの伯父でもあるのだからな」
「ありがとうございます…おじさま」
最後の一言は陛下にだけ聞こえるように小さく言った。
陛下は一瞬驚いたように目を見開いてから、私の頭をなでてくれた。
「でも、考えてみると私はいろいろといただいているのに、何も返すことが出来ていませんね」
少ししょんぼりしていると、陛下が満面の笑みを浮かべて私におっしゃった。
「そなたがいるだけで十分ではあるが、それではこうしようか。いつかそなたが公式の場でダンスを踊る際、一番最初はこの私と踊ること」
「え、それでよろしいのですか?」
思いがけないご要望に驚く。
「ああ。何度か練習に付き合っておるが、日に日に上達しているのがわかる。だから晴れ舞台を一番間近で見たいと思う…それにこればかりは賢者の奴には譲りたくないしな」
最後の方はよく聞き取れなかったけど、そんなことでよければがんばりたいと思う。
それがいつになるかはよくわからないけど。
次回は4/3(土)に投稿予定です。




