紹介
翌日は熱もすっかり下がったけれど、時々咳き込むので今日も部屋でおとなしくしている。
魔界のハーブのシロップは、いつの間にか新しい瓶が届いていた。前にいただいたのがなくなりかけていたのを魔王様が察してくれたのだろう。治ったら御礼を言わなくては。
今日は王宮へ行く用がないという勇者様が顔を出してくれた。
賢者様と同じようにお見合いの件を謝ってくれたけれど、もう本当に気にしていないし、風邪も夜更かしのせいだからと説明して納得してもらった。
その後は2人きりなのでくだけた口調で他愛もない話をしていると、ふいにノックの音がした。
「ミーナ様。風邪もだいぶ良くなったですから、そろそろ読書も解禁してよいだろうとのことなので、本をお持ちいたしましたよ」
メイド頭さんから借りた小説は、寝込んでいる間は取り上げられていたので、ずっと続きが気になっていた。
「わぁ、ありがとうございます!」
「ただし、完治するまでは寝る前に本をお預かりしますからね」
メイド頭さんは本を手渡しながらもしっかり釘を刺す。
「はぁい」
1人になったら続きを読まなくちゃ。
「ああ、そうだ」
勇者様が何かを思いついたらしく、突然メイド頭さんの腕をつかんでニヤッと笑う。
「ミーナ、いい機会だから紹介しとくな。前にも話しただろ?こいつが俺の口説き落とした女だ」
「ええっ?!」
私がびっくりしてメイド頭さんの顔を見ると真っ赤になっていた。
「ちょ、ちょっと、急に何でそんなこと言っちゃうのよっ?!」
初めて見る素のメイド頭さん。
「ミーナは俺の妹分だから好きな女がいることは話してあったんだ。今はちょうど他に誰もいないから紹介しようと思ってさ」
「うわぁ、そうだったんだ…全然知らなかった」
予想外の事態に呆然としてしまった。
「俺は別にいいと思うんだけどさ、こいつが恥ずかしいから誰にも知られたくないっていうからさ」
「え、どうして?」
メイド頭さんの方を見る。
「だ、だって私の方が年上で、平民で、別にきれいでもないし…」
うつむくメイド頭さん。
「そんなこと気にすることねぇっていつも言ってるのにな。俺だって平民の出だしさ。確かに勇者という立場上、貴族の女とかが寄ってきたりするけど、そいつらは俺自身を見てるわけじゃない。でも、こいつは素の俺を見てくれてる。ミーナの見合いの件に関しては本気で怒られた」
「だ、だってあれは誰だって怒るでしょ。調査でミーナ様にふさわしい相手じゃないってわかってるのに」
「ほら、勇者である俺に物怖じすることなく、人のことを思いやれる。な、いい女だろ?」
私の方を向いてウィンクする勇者様。
「うん!」
私は笑顔でうなずく。
「ミーナ、悪いがもうしばらくは俺達のことは内緒にしといてくれよな」
「わかった」
再びうなずく私。
「さて、長居しちまったからそろそろ戻るわ」
メイド頭さんの肩を抱いてドアへ向かう勇者様。
ドアを開ける前にメイド頭さんがこちらへ振り返った。
「ミーナ様、夜になったら本を回収に伺いますからね」
本の代わりに2人の話をねだろうかなぁ。
次回は4/1(木)に投稿予定です。




