花束
翌日には熱もだいぶ下がって朝食も全部平らげたけど、声がまだ元に戻っていないので、今日もベッドの住人になっている。
本を読むのもまだ禁止されているため、少々時間をもてあまし気味なので、いろいろと考えたりしていた。こうして1人きりでゆっくり考える時間は、ありそうであまりなかった気がする。
午前中はどこかへ出かけていたらしい賢者様が、午後になってから私の部屋へやってきた。起き上がろうとしたけれど、
「ああ、横になったままでいい」
と制された。
「ミーナ」
なんだか深刻な表情の賢者様。
「何でしょう?」
しばらくの沈黙の後、賢者様が口を開く。
「やはり見合いの件はミーナの心に深い傷を残してしまったのだろうか?」
「へっ?」
思いがけない問いに変な声が出てしまった。
「あの一件の後、すぐに倒れてしまっただろう?あれから執事やメイド頭が私に時折非難の目を向けるし、もう一度きちんと謝らなければならないと思ったのだ」
ああ、魔王様が言っていたのはこういうことだったのか。
あの件を気に病んで体調を崩したと思われてるみたい。メイド頭さんは知っているはずなんだけど、賢者様には言っていないのかも。
とりあえず、あわてて起き上がる。
「あ、あの、賢者様!風邪をひいてしまったのは本に夢中で夜更かししてしまったのが原因でして、お見合いのせいじゃありません。騎士様のことは別に…ゲホゲホッ」
咳き込んでしまった私に賢者様がコップを差し出してくれる。のどを通る冷たい水のおかげで少し落ち着く。
「賢者様、本当にお見合いの件も騎士様のことも、今はもう何とも思っていませんよ」
「今は…ということは、気に病んではいたのだろう?」
いまだに深刻な表情の賢者様に笑顔で答える。
「もう済んだことです。何かあったら反省して次に生かしてせばいい、いつまでも引きずるな、と魔王様に教えられましたから」
賢者様の表情がようやく少し緩む。
「ミーナのその前向きさは魔王殿のおかげなのだろうな。では、この件は本当に終わり、ということでよいだろうか?」
「はい、もちろんです」
「ありがとう。ああ、ミーナに渡したいものがある。少し待っていてくれ」
そう言い残して賢者様はいったん部屋を出て行った。
「ミーナ、これを受け取って欲しい」
戻ってきた賢者様は小さな花束を私に差し出す。
「どうしたんですか?それ」
「花束を贈ることは見合いの彼に先を越されてしまったから、後日私から贈ると言っただろう?」
オレンジと黄色のガーベラがメインの花束。
「私なりにミーナのイメージで作ってもらった。真っ直ぐで真摯で前向きな女性、そして真っ直ぐなところを一番表したかった」
差し出された花束を受け取る。
「ありがとうございます。とても素敵ですね」
騎士様からいただいた淡いピンクの薔薇の花束もきれいだったけれど、私らしさという点ではこちらの方が納得できる気がする。
「ミーナ、1つお願いがある」
「なんでしょう?」
「風邪が治ったら私の研究を手伝ってくれないか?以前、魔王城からもらってきた資料の解析を進めてるのだが、ミーナの力を借りたいのだ」
午前中に時間をもてあましていた時、ぐるぐると考えていた。
私がやりたいこと、やるべきことを。
「私でよければ喜んで!」
私はやっぱり自分で動いて誰かの役に立ちたい。そう思う。
次回は3/30(火)に投稿予定です。




