歌声
風邪は時間が経つにつれて身体がだるくなり、夕食は飲み込みやすいものにしてもらってあったけれど、半分くらいしか食べられなかった。食後に薬を飲んで、また眠りにつく。
魔王様が子守唄を歌ってくださっている夢を見た。
魔王城では使用人の寮で暮らしていたけれど、保護されて魔界の環境に慣れるまでは魔王様のプライベートエリアに置いてもらっていた。
真夜中に怖かったことを思い出して泣いていると、すぐに気がついて添い寝して子守唄を歌ってくれた。低くて少しかすれているけれど、とても優しい歌声。
だけど、夢の中の歌声はいつの間にか高く澄んだ声の別の歌に変わっていた。
歌っているのも魔王様ではない女性で、なぜか顔は見えない。とても心地よい歌声だけど誰なんだろう?
子守唄が終わりかけ、そろそろ夢から覚めようとする頃、かすかに声が聞こえた気がする。
「私達のかわいいウィルヘルミナ、愛しているわ」
目が覚めると賢者様が私の顔を心配そうにのぞき込んでいた。
「ミーナ、大丈夫か?」
そう言って私の顔をハンカチで拭う。
「夢を見ていたのか?泣いていたぞ」
ああ、それでハンカチなのか。
「えっと、子守唄を歌ってもらう夢でした」
なんとか声は出るようだ。
「そうか。悲しい夢や怖い夢でなくて良かった」
少しほっとした表情になる賢者様が私の額に手を当てる。賢者様の手がひんやりとして気持ちいい。
「まだ熱があるな。水を飲むか?」
うなずくと起き上がるのを手伝ってくれた。すぐに背中にクッションを置いて、ショールを肩にかけてくれる。
手渡されたコップを受け取って水を飲む。冷たさが喉を通り抜けていき、少しだけ楽になった。
「今、何時くらいですか?」
「まだ夜明け前だな」
言われてみればカーテンの隙間はまだ暗い。
「もしかして、ずっとついていてくださったんですか?」
「昼間は使用人達に任せ、夜は私と勇者が交代している。さぁ、もう横になって眠るといい」
ショールとクッションをはずされ、布団にもぐりこむ。
「賢者様」
「何だ?」
「心配かけちゃって、ごめんなさい」
「そう思うなら早くよくなることだな」
小さくうなずくと、そっと頭を撫でられた。
すぐに眠気がやってきて目を閉じる。今度は何の夢を見ることもなく朝を迎えた。
翌朝もまだ熱が下がらず、身体がだるいまま朝食を半分ほど残してしまった。
午前中は眠ったり目が覚めたりを何度か繰り返していたが、午後になって勇者様がいろんなものを持って私の部屋にやってきた。
「騎士団の訓練のために午前中は王宮へ行ってたんだが、いろんな人からお見舞いの品を預かってきたんだよ」
聖女様からはかわいい花が入った籠、王太子殿下からは王宮で人気があるという喉にいい飴が入った瓶、ダンスやマナーの先生からもお花をいただいてしまった。
治ったら御礼を言わなくては。
「それで、これは国王陛下からだってさ」
そう言って手渡されたのは、国の花である百合が彫られた小箱。
ふたを開けてみると、音が鳴り出してびっくりする。
「ほう、オルゴールだったのか」
そばにいた賢者様がのぞき込む。
オルゴールという名前は聞いたことがあったけど、実物を触るのは初めてだ。こんなに綺麗な音が出るものだったのか。
「あれ?」
鳴り出したメロディでふと気付く。これは間違いなく夢の中で澄んだ声の女性が歌っていた曲だ。
「これ、何の曲ですか?」
「いや、私は聞いたことがない曲だな」
「俺も知らないなぁ」
賢者様も勇者様も知らないと言うし、お屋敷の使用人の方々も誰も知らなかった。
国王陛下にお礼を言う機会があったら聞いてみようかな。
賢者様からオルゴールの使い方を聞き、何度か聞いてからまた眠りについた。
次回は3/28(日)に投稿予定です。




