風邪
「ミーナ、大丈夫なのか?」
話を聞きつけたらしい賢者様と勇者様が心配そうな表情で私の部屋にやってくる。
「ちょっと喉が痛いだけで、そんなにたいしたことはないと思うのですが」
賢者様が私の額に手を当てる。
「少し熱があるな」
え、そうかな?
「王宮には俺から伝えておくから、睡眠と栄養をしっかりとって休んでおけよな」
勇者様が私の頭を軽く撫でて部屋を出て行く。
「食事はここへ運ばせる。あとで医師も手配しておくから、おとなしく寝ているように」
賢者様も私の頭を撫でてから出て行った。
部屋から誰もいなくなったので、通信の魔道具で魔王様に連絡を取る。ベッドの上からなので音声のみだ。
『おや、どうした?ミーナ。いつもと違う時間だが、何かあったかの?』
「申し訳ありません。どうやら風邪をひいてしまったようで、しばらく連絡できなくなりそうなので一応お知らせしておこうと思ったのです」
『ああ、確かに声が少しおかしいな。熱はあるかの?』
心配そうな魔王様の声。
「賢者様が言うには少しあるらしいです。でも、今のところ喉の痛み以外は元気ですよ」
『ミーナは昔から風邪をひくと真っ先に喉からやられ、その後で熱が出ていたな。できれば薬を送ってやりたいところだが、それぞれの状態に合わせて調合するものなので今は難しいか。せめて喉の痛みを和らげるものを送るとしよう』
「ありがとうございます」
『で、なぜ風邪などひいたのかの?』
「えっと、その、読んでいた本がおもしろくて、つい夜更かししてしまいまして…」
魔王様のため息が聞こえた。
『幼い頃のミーナもガラス玉をころがす迷路に夢中になって時折夜更かししておったが、今もたいして変わらぬのだな』
「も、申し訳ありません」
それって全然成長してないってことだよね、きっと。
『まぁ、しかたがあるまい。ただ、このタイミングでは他の理由も邪推されそうじゃの』
魔王様が不思議なことを言う。
「他の理由、ですか?」
『先日の見合い問題により心身ともに弱っていた、とかな』
お見合いの件は、魔王様に通信の魔道具で経緯を随時報告していたのですべて知られている。そういえばメイド頭さんは賢者様と勇者様に夜更かしが原因であることを伝えてくれたのだろうか?
「えっと、賢者様達には後で説明しようと思います」
くすっと魔王様が笑った。
『さて、説明して納得してもらえるかどうかはわからぬがな。まぁ、ともかく早く治すようにな。元気になったら、またこちらへも遊びに来るとよい』
「はい、ありがとうございます」
部屋に運ばれてきた朝食を取った後、ベッドのそばにあるテーブルの上にハーブのシロップの瓶が置かれていることに気がついた。いつのまにか魔王様が転移魔法で送ってくださったのだろう。
幼い頃に風邪をひくと必ずこれが出てきた。普通はハーブの抽出液をそのまま服用するのだが、魔王様が私のために甘くしたものを作らせていたことはずいぶん後になってから知った。
久しぶりに口にしたシロップは甘くてとても懐かしい味がした。
午後になって、お医者様がやってきた。なんと王宮に勤めている女性医師で、私が授業を休むことを知った国王陛下からの指示で来てくださったそうだ。
そういえば今日の授業はダンスで、久しぶりに国王陛下がお相手してくださることになっていた。お忙しい中を都合をつけてくださっただろうに、申し訳ないことをしてしまった。
丁寧な診察の後、説明を受ける。
「風邪ですね。他のご病気の心配はないようです。お薬をお出ししますが、2~3日は熱が出るかと思います。睡眠をしっかりとって、食事も無理がない範囲でとってくださいね」
その日の夜から熱が急に上がり、私はぐったりしてしまっていた。
次回は3/26(金)に投稿予定です。




