追求
賢者様を真っ直ぐに見据える。
「賢者様も勇者様も、そしておそらく国王陛下も、こうなることはきっと予想されていたんですよね?」
ほんの一瞬、目を見開いた賢者様。
「なぜそう思った?」
「騎士様のおうちについて調べていたのですから、当然ご本人の人柄や評判だって調べているんでしょう?」
「そうだな」
帰りの馬車でずっと考えていたことをぶつけてみる。
「その上であえてお見合い話を持ってきたのは、世の中にはああいう方もいるということを私に教えるため、なんですよね?」
賢者様はわすかに目を伏せた後、私と目を合わせる。
「確かにその考えがあったことは認める。身分に必要以上にこだわったり、出自や性別などで人を見下すような態度を取る者は、残念ながらめずらしくはない。そして貴族社会では特にその傾向が強い。いきなりそういう連中の中に放り込まれるよりは、典型的な彼に慣れておいた方がいいだろうと思ったのは事実だ」
私を思ってくださってのことなんだろうけれど、それでもこういうやり方はすっきりしない。
「だが決してそれだけではない。お互いが刺激となって変化が生じてくれることにも期待はしていた」
「ミーナ、俺からも言わせてくれ」
壁際に立っていた勇者様が小さく片手を上げて会話に加わる。
「賢者の奴はミーナのことだけを思ってのことだっただろうが、俺はあいつのためにも見合いを認めた。あいつも含めて今日いた3人は近衛騎士団に入れなかった連中でな、根っからの貴族的な意識もあって騎士団の同期の間で少々浮いた存在になっていたんだ」
近衛騎士団に入れるのは貴族の子息のみで、厳しい入団審査があると聞いている。おそらく何らかの理由でその審査で落とされたのだろう。そして平民や下位貴族の子息が多い騎士団で、あの貴族意識のままでは他の方々とぶつかることがあったのかもしれない。
「向こうから見合いを申し込んできたわけだし、ミーナと接することであいつの凝り固まった意識を変えられるかもしれないと思った。残念ながら変化に至る前に終わっちまったがな」
「そうだったんですか」
勇者様は勇者様なりに彼らのことを考えていたのだろう。
「先方の父親とは明日の午後に会うことになっている。そこで話をつけてくるつもりだ。何にしても人を利用したり試すようなやり方になってしまったことは反省している。本当に申し訳なかった」
賢者様と勇者様が頭を下げた。
「わかりました。お2人の謝罪を受け入れます。ただ、今日の特別授業で作ったクッキーは2人にと思ってラッピングまでしていましたが、今はそんな気にはなれないので執事さんとメイド頭さんに渡すことにします」
そう言って立ち上がる。
「それでは私は着替えてまいりますね」
サロンを出ようとすると背後で「ミーナの手作りの菓子が…」なとどいうつぶやきがあったようだけど、聞こえないふりをした。
着替えてから使用人の方々の休憩室へ向かう。
「執事さん、メイド頭さん。これ、王宮の授業で作ったクッキーです。どうぞ召し上がってください」
少し驚いた表情のお2人。
「ありがとうございます。旦那様や勇者様にはもう差し上げたのですか?」
執事さんの問いに首を横に振る。
「いいえ。お2人にはあげないことにしました。お見合いの件でそういう気分ではなくなったので」
納得したような表情の執事さんとメイド頭さん。おそらくすでに顛末は伝わっているのだろう。
「かしこまりました。そういうことでしたら私どもでいただきたいと思います」
「王宮の最高級の材料と菓子職人さんの指導で作りましたから、間違いなく美味しいと思いますよ!」
私は笑顔でお2人にそう言った。
「私どもはお見合いの件は反対していたのですよ。先方についてお調べしたのは私でしたから」
クッキーの包みを受け取る執事さん。
「そうそう、お相手の方はミーナ様にはふさわしくないって旦那様に申し上げましたのに、こういう結果でしょう?反省のためにもこのクッキーは絶対に差し上げませんからね」
メイド頭さんがポンと手を叩く。
「そうそう!ミーナ様に後で読み終えたばかりの小説をお貸しいたしますね。今年読んだものの中では一番と言っていいほどの面白さですわ」
「ありがとうございます!楽しみにしています」
次回は3/22(月)に投稿予定です。




