庭
「お、王太子殿下、なぜこちらへ?」
ニッコリ笑う殿下。
「ちょっと息抜きに散歩してたら、ミーナちゃんの姿が見えたから来てみただけだよ。ああ、そうだ。確か君はミーナちゃんにお見合いを申し込んだ新人騎士君だよね?」
「は、はい」
その答えに一瞬で殿下の笑顔が消え、冷気すら感じる。
「我が従妹姫に対して『平民の田舎娘のくせに生意気だ』とはずいぶんな言い様だねぇ?」
「…従妹?」
3人が固まる。私も固まる。そんなにあっさりと明かしちゃっていいの?
「そう。公表はしていないけれど、ミーナことウィルヘルミナ嬢は国王陛下の妹の忘れ形見で、僕の従妹だよ。長らく行方不明だったけど、平民として暮らしていたことがわかってね。今はこうして王宮に通って学んでるってわけ」
「た、大変申し訳ありませんでした!」
騎士様が深々と頭を下げる。
「出自を知らなかったとはいえ、君がミーナちゃんに対してどう思っているかよくわかったよ」
「あ、あの、それは」
「ああ、そうだ!」
言い訳しようとする騎士様の言葉をさえぎる殿下。
「出てきなよ、勇者殿」
私達の背後からすっと勇者様が現れ、殿下の前で片膝をつく。
「勇者殿は国王陛下からの依頼によりウィルヘルミナ嬢の護衛もしている。ここでの会話、聞いていたね?」
「はい、最初からすべて聞いておりました」
殿下が冷たい微笑を浮かべる。
「勇者殿、こんな男に大事な従妹を任せることは出来ないので二度と近寄らせないように」
「かしこまりました」
うなずく勇者様。
殿下が3人の方を向く。
「さて諸君。ウィルヘルミナ嬢が国王陛下の姪であることは現時点では極秘事項だ。我が国の誇り高き騎士ならば間違っても言いふらすことなどないとは思うが、もしもこのことが広まるようであれば、私だけでなく国王陛下のお怒りに触れることになるから覚悟しておくように。陛下はウィルヘルミナ嬢を溺愛しておられるからね」
「「「はいっ!」」」
続いて私の方を見る殿下。
「さて、ミーナちゃん。おつかいの途中なんだろう?この場は僕が収めるから早く行っておいで。ああ、この後のお茶会は僕も参加するからね。たぶん途中からになるとは思うけど」
「はい。あの、ありがとうございました」
殿下に頭を下げてから庭師さんのところへ向かった。
さっきの件でいろいろ思うところはあるけれど、まずはおつかいをこなさなければ。
聖女様との庭の散策時に何度か会っているので顔なじみの高齢の庭師さんのところへ行くと、すでに花が入った籠を用意してくれていた。
「聖女様ご自身は大輪のバラのように大変お美しい方ですが、野に咲くような花々がお好きなようなので、できるだけ好みに合わせてみました」
「ありがとうございます。とてもきれいですね」
私も思わず笑顔になる。
「お褒めいただき光栄でございます。ミーナさん…いやウィルヘルミナ様、貴女の笑顔は今は亡きお母様によく似ておられますな」
「お母様?」
高齢の庭師さんが笑っているのに泣き出しそうな表情になる。
「私はここに長く勤めておりますので、お会いしたことがあるのですよ。よく散策の折に花の名前を聞かれたものです。ああ、まだ赤ん坊だった貴女を抱いてこられたこともありましたな」
「そうだったんですか」
この庭はお母様にも馴染みの場所だったのか。
「私めはもう身体がなかなかいうことをききませんで、今月末にて退職することになっております。最後にこうしてウィルヘルミナ様にお会い出来たこと、大変嬉しく思います」
そう言ってくれた庭師さんの手を握る。働く人の手だ。
「長い間おつかれさまでした。どうかいつまでもお元気で」
次回は3/18(木)に投稿予定です。




