本音
メイドさんに打ち明けた後もしばらくはもやもやした感じを抱えていたけれど、やるべきことがある時はあまり考えないようにすることにした。
今日は王宮での特別授業。なんとお菓子作りだ。
王太子殿下の婚約者となった聖女様が、私とお茶している時にお菓子作りの話題となり、
「殿下に手作りのお菓子を贈ってみたかったわ」
とポロッとこぼしたら、ちょうど殿下の誕生日が近いこともあり、侍女や女官の方々があっという間に手はずを整えてくださったらしい。聖女様は次期王太子妃として王宮の皆さんに慕われているようだ。
聖女様が正式に婚約なさった時点でお世話係からはずれた私は、妃教育のお供役としてワンピースで王宮に通うようになっていたが、今日は久しぶりにメイド服。やっぱりこの格好が一番身が引き締まる気がする。
今日作るのは、初心者の聖女様でも難しくないものということでクッキーに決まった。王宮の菓子職人さんが講師である。
私は魔王城の厨房のお手伝いもしていたので、数え切れないほど作ったことがある。だけど今日は聖女様が殿下のために作るのだから手助けに徹する。ただ、魔界で教わったのと材料の扱いが若干違う部分があって、菓子職人さんにその理由を聞いたりした。逆に菓子職人さんは私が話した方法に興味を示し、今度試してみると言っていた。
菓子職人さんの丁寧な指導もあってクッキーは無事完成。初めてとは思えない出来ばえにみんなが笑顔になる。
「あっ!」
ラッピングまで仕上げたところで聖女様が小さい声を上げた。
「どうかしましたか?」
「殿下に贈るのにお花も添えようと思って、庭師さんに頼んでおいたのをたった今思い出したのよ」
後片付けとこの後のお茶会の準備で侍女や女官の皆さんはバタバタしているようだ。
「それじゃあ私が受け取りに行ってきますね!」
場所はわかっているし、騎士団の訓練場の脇を通れば近道できるはず。だから私が行くことにした。
王宮内は走ってはいけないので早歩きで移動する。
騎士団の訓練場のあたりに差し掛かった頃、倉庫の陰から聞き覚えのある声が耳に届いた。
「そういやお前、ミーナさんと食事に行ったんだろ?」
「まぁな」
そう答えたのは騎士様の声。
「で、どうだったんだ?」
「最初が肝心だからさ、貴族向けのレストランの中でも高級なところに連れて行ったさ。食事のマナーはちゃんと出来てたようだが、平民で田舎育ちの子には敷居が高かったかもな」
そう言うと複数の笑い声が上がる。
「だけどさぁ、お前が平民の女に手を出すとはビックリだなぁ」
さっきまでとは別の人の声。
「確かに平民だけどさ、あの子の後見は勇者殿や賢者殿だろ?その勇者殿や賢者殿は国王陛下の直属だ。そのあたりの貴族令嬢より利用価値があるからに決まってんだろ」
そうか。騎士様が求めていたのは私じゃないんだ。
実際に会って話してみて、もやっとすることが多かったから騎士様への好意といえるものはまだなかった。
それでも騎士様の本音を知ってしまって、ショックを受けている自分に気づく。だって私自身に価値がないと言っているのも同然だから。
でも、おかげで私の気持ちは決まった。
「ごきげんよう。皆様が大きな声でお話しされていたので、つい聞こえてしまいましたわ」
彼らの前に出て行く。
「ミーナさん?!」
倉庫の陰にいたのは3人。
「思いがけず本音を聞かせていただけて感謝しておりますわ。後日、正式にお断りをさせていただきますが、おそらくもうお会いすることはないでしょう。それではごきげんよう」
そう言い切ってその場を去ろうとすると、騎士様に腕をつかまれた。
「後ろ盾があるとはいえ、平民の田舎娘のくせに生意気なこと言うんじゃねぇよ!女なんだからおとなしくしとけばいいんだよ!」
「おやおや、我が国の誇り高き騎士とは思えない発言だねぇ」
3人があわてて最敬礼する。
突然この場に現れたのは王太子殿下だった。
次回は3/16(火)に投稿予定です。




