違和感
騎士様と会う約束をした日。
淡い紫色のワンピースを着せられた私は、使用人の皆さんに見送られて迎えに来てくださった馬車に乗り込む。賢者様は屋敷におられたけれど、急ぎの用があるとかでお部屋から出てこなかった。やはり私がお見合いすることをあまりよく思っていないのかもしれない。
貴族向けの高級な店舗が建ち並ぶエリアの入口で馬車を降りる。
騎士様に腕を差し出されたので、エスコートしてもらって歩き出す。
目的のお店はすぐ近くにあった。重厚な扉のある歴史がありそうな建物だ。
「ここは貴族向けのレストランなんですが、私が一緒ですからミーナさんも大丈夫ですよ」
「はぁ」
中に入ると高級そうな調度品が並び、立派な制服を身にまとったお店の方が予約席へと案内してくれる。
「平民のミーナさんは気後れしてしまうかもしれませんが、どうか気楽になさってくださいね」
「はい」
笑顔でそう答えるけれど、なぜか気持ちはもやっとしてしまう。
騎士様はこのレストランのことやおうちのことなどあれこれ話してくれるけれど、正直なところ会話はあまり弾まない。でも騎士様はきっとそれに気づいてはいないのだろう。
「メインの肉料理は大変めずらしい魔獣を使った料理なんです。ミーナさんが育った辺境の地ではこんな貴重な食材は見たこともないのでは?」
「はぁ」
私が魔界育ちであることは伏せているので言えないけれど、魔界ではごく普通に食していた。食べ慣れているからこそわかるけれど、下処理がちゃんとできていればもっと美味しくなるのに、少しもったいない気がする。でも人間界ではそういう知識はないだろうしなぁ。
「ミーナさんは剣を習っておられるのですよね?」
デザートが出されたあたりで、ようやく私自身について聞かれた。
「ええ、そうなんです」
「ミーナさんはせっかくかわいらしいのですから、もっと女性らしいことをなさればよいと思いますよ」
「はぁ」
表情には出ずに済んだと思うけれど、ついムッとしてしまった。
レストランを出て周辺を散策したり、帰りの馬車の中でもそれなりに会話はあったけれど、言葉の端々にどうも見下されている感じがしてしまうのは私の考えすぎだろうか?
「今日はお付き合いいただき、ありがとうございました。またお誘いしますね」
笑顔で騎士様がそう言ってくださるけれど、また一緒に出かけたいという気持ちが起きてこない。
「…こちらこそありがとうございました」
何とかお礼を言い、去っていく馬車を見送りながら思わずため息をついた。
「おかえりなさいませ、ミーナ様。もしかして外出でお疲れになりましたか?」
出迎えてくれた私専属のメイドさんが私のため息に気付き、声をかけてくれた。
「なんというか、気持ち的に疲れた気がします」
「もし私でよろしければ、お話を伺いましょうか?」
そういえば1人で抱え込まない方がいいと賢者様にも言われていたっけ。
「そうですね、ちょっと聞いてもらえますか?」
「かしこまりました。まずはお部屋にまいりましょうか」
私の部屋に戻るとメイドさんがハーブティーを出してくれた。やさしい香りと温かさが疲れた身体と心にしみわたる。
「ありがとうございます。とても美味しいです」
メイドさんは微笑み返してくれた。
一息ついたところで、騎士様との会話で気になったことを話してみた。
「もしかして私が気にしすぎなのでしょうか?」
メイドさんが少し考えてから話し出す。
「世の中にはいろんな方がおられますからね。まぁ、ちゃんとお話しするのは今日が初めてだったわけですし、もしも今後も違和感を感じるようであれば、その時はお付き合いを見直してみるのもありかと思いますわ」
「…そうですね。まだ判断するには早いのかもしれませんね」
次回は3/14(日)に投稿予定です。




