打診
試合を経験した私は、これからも剣の稽古は続けるけれど、勇者様から護身術も習うことにした。
「それは確かに身に着けておいた方がいいかもしれない。できれば剣の稽古よりもそちらに力を入れて欲しいところではあるがな」
賢者様にも話して認めてもらった。
勇者様は腕力のない私でも出来ることをいろいろと考えてくれているらしく、まずは人間の急所から教わっている。
護身術を習い始めてしばらく経った頃。
夕食後に賢者様に呼ばれて応接室へ。なぜか勇者様も一緒だった。
向かいに座る賢者様が封筒をテーブルの上に置く。
「実はミーナに見合いの打診があった」
「「は?」」
勇者様と同時に声が出た。
「中を見てみろ。お前なら知っているだろう?」
勇者様が封筒を手に取り、中の書類に目を通す。
「ああ、こいつか」
「お知り合いなんですか?」
隣に座る勇者様の方を見て聞いてみる。
「ミーナも会ったことがあるぞ。ほら、騎士団を見学した時に案内役だった奴だ」
あの時は左手を怪我していて、他の騎士の方々と比べると少し細身な方だった。
「ああ、あの方ですか」
「連中には『遊び半分でミーナに手を出すな』と釘を刺しておいたんだが、それでも申し込んできたってことは本気なんだろうな」
賢者様がため息をつく。
「まったく、お前が余計なことをするからミーナが目立ってしまったではないか」
「ミーナを籠の鳥にはしないって言ったのはお前だろ?それにあくまで仮婚約だからミーナはまだお前のものってわけじゃねぇしな」
「まぁ、そうなんだがな。実は国王陛下からも言われている。ミーナの選択肢を狭めないためにも、もしもそういう話があったら1度くらいは会わせてみてもいいのではないか、とな。そんなわけで、簡単だが先方の家について調べてみた」
賢者様が勇者様に紙を手渡す。
「伯爵家の次男坊だったか。家の方は特に問題はなさそうだな。騎士団では実技は正直いまいちだが、座学はわりといい方だったと思う」
勇者様が紙を賢者様に返す。
「それと騎士団見学で思ったけどさ、ミーナは今まで同世代の子と接する機会がほとんどなかっただろ?その点でも会ってみるのはありかもしれねぇな」
言われてみれば、同世代で接したことがあるのは賢者様のお屋敷のメイドさんと先日の騎士団の皆さんくらいかも。
賢者様が私の方を向く。
「ミーナ、案内役の彼はどうだった?」
急に聞かれて少しとまどう。
「どうと言われましても…説明は丁寧でわかりやすかったですし、対応も硬すぎず軽すぎず、いい感じだったと思います。ただ、個人的なことは何もお話していないのでわかりません」
「特に不快感や嫌悪感はなかったのだな?」
「そうですね」
賢者様が私を真っ直ぐに見つめる。
「ミーナ、この件はどうしたい?」
そう問われて少し考える。
「でも、その前に賢者様はいいんですか?仮とはいえ一応は婚約者なのに、私が他の人とお見合いするなんて」
「本音はともかく、ミーナの視野を広げてやりたいとは思っている。他を知ることで私のことを考える機会にもなるだろうしな」
私も真っ直ぐに賢者様を見つめ返す。
「まずは会ってみないとどんな人かもわからないですよね。でも、会ってみて違うなと思っても、断りにくいんじゃないかというのが心配です」
「別に会ったからってすぐに先まで考えなくていい。もしも地位などを笠に着てごり押しされたとしても、こちらには絶対的な強さを持つ手札があるしな」
手札って何のこと?
「よし、この件は国王陛下に話をしてからにしよう。ミーナの血縁者でもあるし、こちらが知らない情報を持っているかもしれないしな」
あ、強い手札ってそういうこと。
次回は3/10(水)に投稿予定です。




