努力
「ミーナさん、すごいですね!さっき対戦した彼は毎回ではないにしろ上位に食い込むこともあるんですよ」
ベンチで待っていた案内役の騎士様が興奮気味に話しかけてくる。
「いえ、たぶん女性相手でやりづらかったのだと思いますが」
「それでも剣の速さはすごかったですよ!」
その後、なんとかもう1勝できたけれど3戦目で敗退した。
相手の動きは見えていたけれど、やはり力と経験の差は大きかったと思う。少し悔しいけれどしかたがない。
案内役の騎士様の説明を聞きながら決勝戦まで見学し、表彰式も片隅で見ていた。
「ミーナ、ちょっと上がってこい」
勇者様から上位入賞者に賞金が手渡された後、なぜか壇上に呼ばれた。
「こいつに負けた奴に言っておく。今日は気にする必要はない。さすがに女性相手じゃやりにくかっただろうからな」
勇者様の手が私の肩にポンと手を置かれる。
「こいつはお前達より剣を握って日が浅い。女性だから体力も劣るし、正直に言って特別な才能があるってわけでもない。だが、俺が教えたってのもあるかもしれねぇが、それ以上に日々の努力を積み重ねてきた。別に指示したわけでもないのに毎日練習してたし、剣の指南書も借りてきて読んでた。実際、2戦目では俺が教えていないことをやってたしな」
剣の本を読んでたことを知られていたとは。
勇者様が騎士様達を見回す。
「お前らの中に努力もせずにあきらめてる奴がいる。誰しもがんばったって上手くいかないこともある。だが、またいつかこいつが来た時に恥じない動きが出来るよう努力することを望む。ミーナ、最後にみんなに挨拶しな」
勇者様にそう言われたので、騎士様達の方を見る。
「皆様、本日はとても良い体験をさせていただき、ありがとうございました。勝つ喜びと負ける悔しさを初めて知りました。また機会がありましたらお手合わせいただければと思います」
そう言ってお辞儀をすると、たくさんの拍手をいただいた。
勇者様が私の頭をなでてくれた。
「今日はこれで解散とするが、最後に1つだけ言っておく。今のミーナに身分はねぇが、俺と聖女と賢者がこいつの後見だ。遊び半分で手を出すような奴はただじゃおかねぇから、そこんとこはよく覚えとけよ!」
壇から下りて案内役の騎士様に今日のお礼を言って握手をすると、他の騎士様達からも握手を求められてちょっと大変だった。なぜか、
「俺、もう手を洗わねぇ!」
とか言っている人も何人かいたけど、手はちゃんと洗った方がいいと思う。
「悪いな、ミーナ。連中の教育のダシに使っちまって」
帰宅するため馬車へ向かう途中、勇者様が本音を漏らした。
「やっぱり最初から参加させる気だったんですね?」
「まぁな」
ニヤッと笑う勇者様。
「それにしても私って強かったんですね」
勇者様に頭をなでられる。
「そりゃ俺が教えてるからな。ミーナはまったくの素人からだったから、ヘンな癖がついてなくて、かえって教えやすかった。それに対して連中はここに入る前から多少は習ってきてるから、すでについてる癖はなかなか抜けない。本当はもっと伸ばしてやりたいところではあるんだがなぁ」
2人きりだから本当はくだけた感じで話したいけど、まだ王宮内だからやめておこう。
「今日はとてもいい経験をさせてもらいました。そして気がついたことがあるんです」
「何だ?」
「騎士の方々はたぶん誰かを守るための剣なんですよね。それに対して、私はただやってみたかっただけで何もないなって」
ポンと軽く私の頭に手を置く勇者様。
「まぁ、そうだな。剣の稽古はやめるか?」
「すぐにやめるつもりはないんですけど、私の場合はまず自分の身を守れるようなことを覚えた方がいいのかなって思ったんです。そしたらお兄ちゃんの負担も少しは減るでしょ?」
最後の方は小さい声で笑って言ったら、それを聞いた勇者様がニヤッと笑った。
「よし、わかった。これからは護身術も取り入れていこうか。卑怯な手段ならいろいろ知ってるから任せとけ!」
次回は3/8(月)に投稿予定です。




