見学
賢者様はあいかわらず魔王城から持ち帰った資料の解読を続けているが、日常生活はすっかりいつもの状態に戻った。
「ミーナに解読の協力をしてもらうのは、こちらでもう少し精査してからにしたい」
そう言われたので私も普段どおりに過ごしている。
「ミーナ、前に言ってた騎士団の見学なんだが、明後日はどうだ?」
庭での剣の稽古の後、勇者様からそう聞かれた。
「明後日ですか?えっと、確かその日は王宮で乗馬の授業があるのですが」
「うん、知ってる。だからその後にしようかなと思ってさ」
確かに見学のためだけに登城するより、授業のついでの方がいいかもしれない。
「わかりました。では明後日でお願いします」
「ちょっと待て。騎士団の見学とは何だ?」
息抜きに剣の稽古を見学しに来ていた賢者様が口を挟む。
「お前が資料に熱中している間に約束してたんだよ。なっ?ミーナ」
「はい!とっても楽しみにしてたんです」
笑顔で答えると、賢者様が私の頭をなでた。
「そうか。それなら止めないが、危ないことはしないようにな」
「俺がついてるから大丈夫だって」
そう言う勇者様を見て、賢者様がため息をつく。
「だからこそ心配なんだが」
「ひっでぇ!」
そして騎士団見学の日がやってきた。
乗馬の授業が終わると勇者様が迎えに来てくれたので、乗馬時のズボン姿のままでついていく。
「今日の連中は正式配属になる前の若手ばかりだ。ミーナは勇者パーティが辺境の地で保護した身寄りのない平民の少女と説明してある。ただ、勇者パーティ全員がミーナの後見で、賢者が現在の保護者ってことにしてあるのでよろしくな」
「はい」
国王陛下の姪なんて知られたら間違いなく気を使われてしまうのだろう。
しばらく歩いていくと、騎士団の訓練場の入り口が見えてきて、左手に包帯を巻いた若い騎士様が立って待っていた。
「こいつがミーナの案内役だ」
「ミーナさん、本日は私が案内させていただきます」
彼は怪我のため今日の訓練には参加できないそうだ。
「よろしくお願いいたします」
今はズボン姿なので、スカートをつまんでの挨拶ができないのでお辞儀する。
「俺は他の連中の指導に行ってくるから、まずは施設を案内してやってくれ。それじゃ後は頼むな」
私と騎士様は勇者様に一礼した。
「ではミーナさん、参りましょうか」
「はい」
先を歩く若い騎士様の少し斜め後ろをついて行く。
最初に連れて行かれたのは展示室だった。騎士団の成り立ちや歴史、そして騎士団が活躍した過去の戦争などを説明される。
「過去の戦争については歴史の授業でも少し学びましたが、こうして地形の模型を見ながら説明されるととてもわかりやすいですね」
「ありがとうございます。そう言っていただけると嬉しいです」
最初から少し緊張気味だった若い騎士様がようやく笑顔になった。
いくつかの設備を見学し、最後に案内されたのは食堂だった。
「こちらが騎士団の食堂です。大人数でのミーティングを行うこともあります。ちょうど窓から屋外の訓練が見えますよ」
窓辺に近付くと勇者様が指導している大きな声も聞こえてきた。隣に立つ案内役の騎士様が今やっていることを説明してくれる。
「ミーナさんは我々若手からすごく人気があるんですよ。ご存知でしたか?」
会話が途切れた頃、ふいに案内役の騎士様がおかしなことを言い出した。
「人気、ですか?騎士の皆様とは接点もなかったですし、特に何かしたおぼえもないんですけど」
「ほら、いつも渡り廊下を通る時に訓練場から勇者様が呼びかけてるでしょう?それに笑顔で手を振り返してくれるじゃないですか。厳しい訓練の合間、あの笑顔にみんな癒されてたんですよ。今日の案内役だって『代わってくれ!』と言ってきたのが何人もいたんですから」
「そうだったんですか」
私の声じゃ勇者様まで届かないと思って手を振ってただけなんだけど。
「さて、そろそろあちらへ参りましょうか。これから恒例の勝ち抜き戦が行われるんですよ。みんないいところを見せようと張り切ってますからね」
次回は3/4(木)に投稿予定です。




