兄妹
ふと目を覚ます。あれからどれくらい時間が経ったのかな?
ベッドの上で眠る賢者様の腕はいつのまにか離れていた。動けるようになったので、そっとベッドから起き出す。
かけてある毛布が増えていたので誰か来たのだろう。よく眠っている賢者様の肩まで毛布をかけると静かに部屋へ出た。
「よう、おつかれさん」
薄暗い廊下に座っていた勇者様が片手を上げる。
「ずっとここにいたんですか?」
立ち上がる勇者様。
「まぁな。時々様子を見に行ってたが、ミーナもよく眠ってたんでそっとしておいた。まだ真夜中だから自分の部屋でゆっくり休みな」
そして勇者様にひょいっと横抱きで抱きかかえられる。
「え、なんで?」
「ずっと動けない体勢で大変だっただろ?部屋まで運んでやるよ」
ゆっくりと勇者様が歩き出す。確かに身体がバキバキだった。
「あ、あの、ありがとうございます」
お姫様抱っこで顔がすぐ近くにある勇者様にお礼を言う。
「気にするなって。今の俺はミーナの護衛だからな。それにこうしているとちょっと懐かしい気分になれるしな」
少し寂しげな笑顔の勇者様。
「懐かしい、ですか?」
「俺には妹がいたんだよ。病弱で早死にしちまったがな。そいつがさ、こんな風に抱きかかえられて運ばれるとよく喜んでたんだ」
「そうだったんですか」
「ミーナのことはかわいいとは思うが、賢者のヤツと違ってあくまで妹みたいな感じなんだよな。だからミーナも俺のことは兄貴と思ってくれるとうれしい。困ったことがあればいつでも頼ってくれよ」
私には兄弟はいないと聞いている。
「あ、あの、ありがとうございます」
「兄貴には敬語とかじゃなくてもいいんだぜ?」
小さい頃からこういう言葉遣いが普通になってしまっているんだけど、なんとか努力してみよう。
そしてちょっとだけ勇気を出してくだけた感じで呼んでみる。
「ありがとう、お兄ちゃん」
勇者様の目が一瞬見開かれ、照れ笑いに変わる。
「ははは、妹にも『お兄ちゃん』って呼ばれてたんで、なんかくすぐったい感じだな」
あ、失敗しちゃったかも。
「ごめんなさい。やっぱりやめた方がいい?」
「いや、2人きりの時はそれでいこうか。あ、賢者の奴には内緒な?」
ウィンクする勇者様。
「はい、お兄ちゃん!」
「じゃあ、かわいい妹に兄貴のとっておきの秘密を教えてやるよ。ミーナ達が侯爵家の領地へ行ってる間にさ、前から気になってた女をようやく口説き落とせたんだ」
意外な発言にちょっとびっくりする。
「えっと、それは恋人が出来たってこと?」
「そういうことだ。だけど、まだしばらくは賢者と聖女には内緒な?」
ニヤッと笑う勇者様。
「どうして?」
私は首をかしげる。
「賢者はともかく、聖女に知られると根掘り葉掘り聞かれそうで面倒だからな。そのうちミーナに紹介するよ」
「うん、楽しみにしてる。でもどんな人なの?」
「明るくて優しくて仕事も出来るいい女だ」
勇者様が選んだ女性ならきっと素敵な人なんだろう。
「ねぇ、お兄ちゃん」
「なんだ?」
前から疑問に思っていたことを聞いてみることにした。
「人を好きになるってどんな感じ?」
「そりゃまた難しい質問だな。人それぞれだと思うけど、俺の場合はいつの間にか気になるようになってて、気がつくといつも目で追ってた。話してると楽しいけど、なんかドキドキする。誰にも触れられないように閉じ込めておきたいけど、みんなに自慢したい。まぁ、そんな感じかな」
やっぱりよくわからない。
「難しいね」
「だから人それぞれだから、気にするなって。そのうち自然にわかるさ」
そう言う勇者様の笑顔はとても優しげだった。
次回は2/28(日)に投稿予定です。




