特性
朝食と夕食は賢者様を無理やりひっぱっていくけれど、私が王宮での授業のため不在の日は昼食を取らないらしい。
いつでも冷静な大人の男の人だとばかり思っていたけれど、時にはこんなに世話の焼ける人になるということを初めて知った。
「賢者様はどうにかならないものでしょうかねぇ?」
私の護衛役として賢者様のお屋敷で暮らしている勇者様につい愚痴をこぼす。
「ん~、難しいだろうなぁ。あれも賢者の特性なんだよ」
「特性、ですか?」
暇つぶしの運動をしながら勇者様が答えてくれる。
「並外れた記憶力と思考力を持つのが賢者の特性なんだが、何か1つのことに集中すると脳みそがそっちに全力を投じちまって、日常生活がおろそかになったりする。まさに今の状態だな」
「食事はなんとか取っていただいてますけど、睡眠は大丈夫なんですか?」
「我々には加護があるから、わずかな休息でもなんとかなるが、それでもやはり限界はある。俺が見る限り、そろそろヤバいんじゃないかなぁ?」
そんなことを笑顔で軽く言わないで欲しいんですが。
「だったら、どうすれば…?」
「夕食時に食欲と眠気のどっちが勝ってるか、様子をよく見るくらいかな。眠気が勝ってるようなら、とっととベッドへ連れて行けばいい。ミーナの言うことなら聞くようだからがんばれよ!」
がんばれとか言われてもなぁ。
その日の夕食時。
いつものように賢者様を部屋からひっぱっていくけれど、その時点ですでに挙動がおかしかった。今までに比べて動きも反応も明らかに鈍いし、席についても食事がなかなか進まない。
「さすがに限界みたいだから、もう寝かせた方がいいな。ミーナもついてきな」
同席していた勇者様が半分眠りかけている状態の賢者様をなんとか歩かせ、私はその後ろをついていく。
賢者様の寝室へと移動し、勇者様が賢者様をベッドに座らせる。
自力で着替えさせるのは無理そうだから、せめて首元を緩めた方がいいだろうとシャツの一番上のボタンをはずした直後。
「えっ?!」
なぜか賢者様は私を抱きかかえ、そのままベッドの上で横になってしまったのだ。
すでに寝息を立てているのだが、抱きしめる力が強くて抜け出せない。
「ゆ、勇者様!これ、どうしましょう?」
「あ~、せっかく眠ったんなら起こしたくないんで、しばらくミーナが抱き枕になっておけばいいさ。そのうち腕も緩むだろうしな」
ニヤニヤしながらベッドを見下ろす勇者様。
「そんなぁ~」
「大丈夫、今までの反動で深い眠りに入ってるだろうから、ヘンなことをされる心配もないさ。もし嫌なことされたら大声を出せばすぐに来てやるって。それじゃ、後で様子を見に来るからしばらく頼むぞ」
勇者様は部屋の明かりを少しだけ暗くして出て行ってしまった。
なんでこんなことになっちゃったんだろう?
挨拶代わりに抱きしめられたりするのはすっかり日常になったけど、これは全然違うと思う。
がっちり抱きかかえられて動けず、すぐ目の前にはぐっすりと眠る賢者様の顔がある。ここまで間近でじっくり見るのは初めてなんじゃないかなぁ?先日お世話になった侯爵家の皆さんもそうだったけど、賢者様もとても整った顔立ちだと思う。
それにしても、離してもらえないのはちょっと困るんだけど、抱きしめられてるものだからとても温かい。夕食後の満腹感もあり、私にも少し眠気がやってきている。どうせ動けないんだし、ちょっとくらいうとうとしてもいいのかな…?
次回は2/26(金)に投稿予定です。




