稽古
魔王城から戻ってきた翌日は、王宮での授業がお休みだったので、午後から勇者様に剣の稽古をつけてもらう。
最初のうちは剣の持ち方や基本動作のみを教わっていた。
だけど今は前半で準備運動や素振りなどを行い、後半は勇者様に本気でかかっていく。といっても、ひたすら軽くあしらわれるだけなんだけど。向こうから軽く打ち込んでくることもあるけれど、かろうじてなんとか受けることができる程度だったりする。
「ほらほら、どうした?まだ時間はあるぞ」
もうすっかり息が上がっているけれど、木剣を構え直して勇者様をにらむ。
最初のうちはただがむしゃらに打ち込みにいき、いとも簡単にあしらわれていた。だけど、最近では相手を見るというのがほんの少しだけわかってきた気がする。
これが今日の最後の一撃。
「やぁっ!」
そう決めて向かっていったけれど、木剣は勇者様の軽い一振りではじき飛ばされてしまった。
「よし、今日はここまでにしておこうか」
「ありがとうございました!」
勇者様に頭を下げた。
使い終わった木剣をきれいに拭き、使った場所の掃除をする。ここまでが剣の稽古。
ほうきで掃いていると勇者様が言った。
「あ、そうだ。ミーナ、近いうちに騎士団の訓練を見に来ないか?」
「えっ、いいんですか?」
王宮内で移動途中に遠くから見かけることはあるけれど、間近で見たことは一度もない。
「これでも騎士団の指南役だから話を通すのは簡単だ。女の子が見学となれば、連中もちょっとはやる気を出すだろうしさ。あ、もちろんミーナが陛下の姪ってことは伏せるけどな」
「ぜひお願いします!」
これはちょっと楽しみかも。
「それにしてもめずらしいよなぁ」
掃除道具を片付けていると、勇者様がつぶやいた。
「何がですか?」
「賢者の奴、家にいれば必ず稽古の様子を見に来ていたのに、今日はとうとう来なかったなって思ってさ」
確かに今まではほんのわずかな時間でも顔を出していた。
「昨日、魔王城でいただいてきた資料に集中しているみたいですね」
勇者様があごに手をやってなにやら考えている。
「だったらミーナがあいつの面倒を見てやらないとだなぁ」
「面倒?」
勇者様がニヤリと笑う。
「ミーナは初めてかもしれねぇが、あいつは何かに集中すると周りのことをまったく気にしなくなっちまうんだ。それこそ寝るのも食べるのも忘れるくらいにな。だから適当なところでどうにかしてやりな。ミーナの言うことだったらちゃんと聞くかもしれん」
そう言いながら勇者様は私の頭をなでた。
勇者様の言葉は、その日のうちに現実として降りかかってきた。
もう夕食の時刻なのに、賢者様が部屋から出てこない。
執事さんとメイド頭さんに私が呼びに行くことを告げ、賢者様の部屋へ向かう。
「賢者様?いらっしゃるんですよね?」
何度ノックして呼びかけても返事がないので勝手にドアを開けて入る。
「賢者様!」
大きな声で呼びかけても振り向こうともしない。もう最後の手段ということで、背後から近寄って肩をつかんで揺さぶる。
「賢者様ってば!」
ようやく振り向いた賢者様。
「ああ、ミーナか。どうした?」
「どうしたじゃありませんよ!もう夕食の時間ですよ」
「…今日はいらない」
そう言って、また資料に視線を戻そうとする。
「ダメです!執事さんの話では昼食も食べてないそうじゃないですか。少しでもいいから食べてください。倒れちゃいますよ」
賢者様の腕をひっぱる。
「わかった、わかった」
ようやく立ち上がってくれたので、無理やり食堂へひっぱっていく。
ちゃんと食べてはくれたけれど、心ここにあらずといった感じで話しかけても生返事ばかり。そして食べ終えるとすぐに部屋へ戻ってしまった。
「ミーナ様、過去に同じようなことは何度も起きているのですが、我々ではここまで連れてくることすらできなかったのです。どうかしばらく旦那様の面倒を見てやってくださいませんか」
執事さんとメイド頭さんに頭を下げられてしまい、私はその役目を引き受けることにしたのだった。
次回は2/24(水)に投稿予定です。




