賢者side:晩餐
ミーナに案内されて見学した魔王城は大変刺激的だった。
まず魔道具の充実ぶりに驚いた。そしてミーナも使い慣れていたのか、どの説明も簡潔でわかりやすかった。
魔道具工房の親方も、質問すると的確に答えてくれる。最後の方はミーナのことをすっかり忘れて話し込んでしまった。いただいた過去の賢者の資料も気になるが、帰ってからじっくり目を通すことにしよう。
魔王殿との晩餐は、来賓用ではなく魔王のプライベートエリアにあるさほど大きくない部屋だった。ミーナが一緒にいるからなのかもしれない。
先ほど見学した厨房で作られた料理が次々に出される。魔界にしかない食材もあるようで、わからないものがあって質問するとミーナが詳しく教えてくれる。
「魔王様!私、乗馬と剣の稽古を始めたんですよ。最近は少しだけど褒めてもらえるようになったんです」
「ほう、それはすごいな」
食事しながらミーナが楽しげに近況を報告する。長く付き合いのある魔王殿の前であるせいか、なんだかミーナが普段より子供っぽく見える気がする。うちの屋敷でも今ではリラックスしているように見えていたが、まだどこかに緊張が残っているのかもしれない。ふとそんなことを考えた。
デザートまでしっかり堪能した後、魔王殿がミーナに言った。
「私はこれから賢者殿と少々酒を酌み交わそうと思う。ミーナは我が子の様子を見に行ってくるとよい。世話係の者たちもそなたに会いたがっておったしの」
「はい!」
嬉しそうなミーナが魔王殿の侍女に連れられて廊下の奥へ消えていき、私と魔王殿は落ち着いた色調の別室に移動した。
「して、人間界でのミーナの暮らしはどうじゃ?」
琥珀色の液体をグラスに注がれながら魔王殿に問われる。
「元気に暮らしていますよ。ミーナが来てから我が家の雰囲気も変わりました。使用人達も好意的に接してくれていますし、ミーナもよく懐いています。私の実家の家族にもすっかり馴染んでいました。我が家でも王城でもさまざななことを学んでいますが、理解が早いだけでなく自分で考える力もあり、とても頭のいい子だと思っています」
「そうか」
魔王殿が微笑みながらグラスの酒を口にするを見て私も飲んでみる。少しくせはあるが、嫌いではない味だ。
「だが人間界の王族の血を引くとはいえ、あれは働くことが当たり前の環境であるここで育った。人間界のお姫様はそう簡単には務まるまいて」
「そうですね。最近始めた剣も馬術も、単純に興味を持ったというだけでなく、身体を動かしたいという思いもあったのでしょう。今後については出来る限りミーナの意志を尊重したいと思っています」
魔王殿がうなずく。
「私からも1つ伺ってよいでしょうか?」
「ああ」
「ミーナが魔界に滞在できる時間はどのくらいなのでしょうか?」
しばらく何かを考える様子の魔王。
「今日着いた時に抱きしめてみた時の感触では、5日もいれば身体に蓄積した魔素で死に至るであろうな。普通に動けるのは3日間が限度といったところか。魔素は魔界を離れれば身体から抜けていくが、すべて抜けるのは滞在した時間の10倍くらいが目安であるな」
「つまり、間隔を空ければ繰り返しの訪問は可能と?」
「まぁそうだが、あくまで今の時点での話であって、今後どう変化するかもわからぬがな」
魔王城を案内したり、夕食時に楽しげに話すミーナの様子を思い出す。
「今日はミーナがここで多くの方々にかわいがられていることを知りました。魔界で暮らすことは無理でも、今日のように時々訪問させてやりたいと思うのですが、お許しいただけますでしょうか?」
魔王殿はグラスを一気にあおって空にした。
「もちろんだとも。私もこの城の者達もいつでも歓迎するぞ。そなたは人間界でしっかりとミーナを守れよ」
「もちろんです」
私は深々と頭を下げた。
次回は2/22(月)に投稿予定です。




