転移
建国祭の少し前から中断していた王宮での授業が再開された…といっても、再開の1回目はお茶会のみで、お互いの近況を話したりしただけだった。聖女様に港町でおみやげとしてに買った栞と海で拾った貝殻をいくつか渡し、旅先での出来事を話して聞かせた。
「海かぁ。私も長いこと行ってないからうらやましいわ」
貝殻を手にした聖女様が少しだけ寂しげに微笑んでいた。
次の日から授業は本格的に再開された。
だけど王太子殿下の婚約者となった聖女様は、新たに学ばなければならないこともあるそうで、ダンスやマナーの授業は今までどおり一緒だけど、座学は別々になるらしい。ちょっとさびしい気もするけれど、学ぶべきものが違うのだからしかたがない。
ただ、ふと思う。
聖女様には王太子殿下の婚約者として学ぶべき明確な目標がある。だけど、私の方は学ぶ理由が王族の血を引いているということくらいで、これといった目標がない気がする。
以前から時々感じていた、少しもやっとした感覚はこれなのかもしれない。
今の私に何ができるのか。これからの私は何がしたいのか。
王都での日々にも慣れてきたけれど、ちょっとだけゆっくり考える時間が欲しいかも。
王宮での授業と賢者様のお屋敷での生活がすっかり普段どおりに戻った頃。
王宮から木箱が届いた。差出人は国王陛下で、中身は以前話していた海王様に贈るお酒だ。
目録もついていて、それに目を通した賢者様が言った。
「さすがにどれも高級なものばかりだな。これとは別に私の方でもいくつか見繕っておいたから、ミーナは魔王殿に連絡して届ける日時を相談してもらえるだろうか?それと、出来れば私もミーナと一緒に行きたいので、それについても確認してみてほしい」
「わかりました」
私はうなずいた。
通信の魔道具で魔王様と連絡を取った相談した結果、届ける日時が決まった。
転移魔法で魔王城へ呼んでもらうことになるのだが、私が意識して触れている物であれば一緒に運べるらしい。
「あの、賢者様が一緒に魔王城へ行きたいとおっしゃってるんですけど、大丈夫ですか?」
「かまわぬぞ。転移の際にそなたに触れていれば一緒に来られるはずだ。それから日時は海王にも伝えておくが、あれはきまぐれゆえどうなるかわからぬ。もしその日に来られなければ私から届けておこう」
「はい、よろしくお願いします」
出来れば海王様に直接お礼を言いたいから、その日にお会いできるといいんだけど。
そして約束の日。
届けるお酒と賢者様とともに転移魔法で魔王城に到着する。
挨拶もそこそこに魔王様にぎゅっと抱きしめられた。
「通信の魔道具でたびたび話はしていたが、こうして直接会うのは久しぶりじゃな。顔色もよく、元気そうで安心した。そういえば少し大人っぽくなったかの?」
魔王様に顔をじっと見つめられる。
「そうでしょうか?」
自覚がないので思わず首をかしげてしまう。
「昔からミーナはかわいらしかったが、今は綺麗になったように思うがな」
そんなことを言われると少し照れてしまう。
「さてはそなたの影響かの?」
魔王様が微笑みながら賢者様の方を向く。
「はて、そうだとよいのですが」
次回は2/16(火)に投稿予定です。




