帰路
翌朝、早めに朝食をとって出発に備える。
玄関まで出ると侯爵家の皆さんがお見送りしてくれたのだが、
「ミーナ、行っちゃやだ~!」
坊ちゃまが抱きついて離れてくれない。とってもかわいいけれど困ってしまった。
必ずまた来ることと、手紙を書くことを約束してなんとか納得してもらった。
弟がいたらきっとこんな感じなのかもしれない。
やがて馬車は出発し、私は侯爵家の皆さんが見えなくなるまで手を振っていた。
馬車では賢者様と2人きり。
私専属のメイドさんは侯爵家から王都の屋敷へ荷を運ぶ馬車に乗せてもらっている。乗り心地を考えればこちらの馬車の方がいいはずなので、一緒に乗ることを勧めたけれど固辞されてしまった。
「どうぞお2人でゆっくりお過ごしくださいませ」
笑顔でそう言われたけれど、賢者様とはこの旅行でずいぶん一緒にいたんだけどなぁ。
「途中で1泊して王都へ帰る予定だ。戻ったらさっそく言語の加護について確認したいんだが、よいだろうか?」
「もちろんです」
私自身もどのくらい使えるものなのか知っておきたいしね。
「まずはうちにある本で試すが、王宮の図書館の本でも試そうと考えている」
「わかりました」
王都では賢者様と2人きりの機会はありそうで意外となかったりする。
だからこの機会にちょっと話してみることにした。
「あの、賢者様」
「なんだ?」
「以前、私に聞きましたよね。何かやりたいことはないかって」
賢者様が私を見つめる。
「ああ。何か思いついたのか?」
「はい。今回の旅行で2つほど思いついたんです」
「2つ?」
少し不思議そうな顔をする賢者様。
「まず1つめは馬に乗れるようになりたいです。昨日、賢者様に乗せてもらいましたよね。もし自分でも乗れたなら、いろんなところに行けるかなって思ったんです」
馬の背という高い目線から見る景色は楽しかったし、風を感じられるのも気持ちよかった。
「そうだな、乗れるようになれば領地での遠出もしやすくなるだろう。馬ならうちにもいるが、きちんと練習するのなら王宮の方がいいかもしれないな。いい馬も教師も揃っている。今度王宮に行ったら相談してみよう」
「ありがとうございます!」
危ないからダメとか言われるかもしれないと思っていたけれど、すんなり認めてもらえたので嬉しい。でも、もう1つの方はさすがにどうかなぁ?
「それで2つめは?」
「剣を習ってみたいんです」
しばらくの沈黙の後、賢者様に問われる。
「なぜ剣を?」
「あ、あの、別に本格的にやりたいってわけじゃないんです。ただ、歴史物の本を読んだり、王宮で騎士団の方々が稽古しているのを見て、剣を握るのってどんな感覚なのかな?って前から思ってたんです。それと、奥様から私のお父様が剣の達人だったという話を聞いたので、さらに興味を持ったというのもあるんですが」
賢者様は少し考えてから口を開いた。
「正直なところ、私としてはミーナに剣を持って欲しくないと思っている。だが、何事も経験であるとは思うし、少しだけ体験してみるくらいなら認めないでもない。この件については勇者に相談してみようか」
実際にできるかどうかはさておき、頭ごなしに否定されなかったことが嬉しかった。
次回は2/12(金)に投稿予定です。




