領地
海辺へのお出かけから帰ってきた翌日は、侯爵家でゆったりと過ごすことになった。賢者様は用事があるとかで夕方まで外出して不在だそうだ。
午前中は坊ちゃまにせがまれて絵本を読んだりお屋敷を探検して遊び、午後は侯爵様の奥様とご長男の奥様と3人で女性だけのティータイム。ここで初めて知ったのだが、ご長男の奥様は平民の出身であるらしい。
「結婚に関しては昔ほど身分にこだわりはなくなっているし、貴族でも政略結婚をよしとしないおうちも増えているわね。うちも私の実家も今は政略結婚ってほとんどないわ」
奥様がそう説明してくれた。よくわからないが、政略結婚は上手くいかないこともあるのかもしれない。
夕方、賢者様が帰ってきて庭の散歩に誘われる。よく手入れされていることがわかる素敵なお庭だ。
「明後日、王都に戻ろうと思うが、明日は特に予定は入れていない。ミーナはどこか行きたいところや欲しいものなどはあるか?」
ちょっと考えて答える。
「特にこれといってないので、ただぶらぶらといろんなものを見てみたいです」
くしゃっと私の頭をなでる賢者様。
「そうか、ミーナはおもしろいな。では思いつくまま出かけてみるとしようか。馬で移動するから動きやすい服装でな」
侯爵家のご家族が揃ったにぎやかな夕食の後、私専属のメイドさんと相談して明日の服装を決める。
「ミーナ様、こんな感じでいかがでしょうか?」
並べた服を見る。
「そうですね。これでいきましょう」
「いろいろ持ってきておいてよかったですわ」
スカートではなくズボンスタイルで、まるで少年のようだけど気に入っている。これなら馬にも乗りやすいだろう。
ちょっとだけわくわくしながら眠りについた。
翌日は朝食を終えて昨日選んだ服装に着替える。髪も邪魔にならないようにメイドさんが綺麗に編んでくれた。
「ミーナ、今日の格好も可愛いらしいな」
「ありがとうございます。これなら馬に乗りやすいと思いますけど、馬って2人で乗れるものなのですか?」
「大丈夫だ。今日乗るのは軍馬を引退した馬だが、丈夫で力も強い。おとなしくて頭もいい奴だ」
今日乗る馬のところまで連れて行ってもらう。今まで見たことのある馬より大きい。
「今日はよろしくお願いしますね」
馬にご挨拶をする。大きな馬は私に鼻先をこすりつけてきた。
「おや、ミーナはこいつに好かれたようだな」
賢者様が笑っていた。
いよいよ出発。
馬に2人乗りするのだが、私が前だ。普段とは目線の高さが違って眺めがいい。賢者様と密接しているのはちょっと落ち着かないけれど。
「このあたりには侯爵家の私兵の訓練所や寮などの施設がある」
遠くに見える屋外の訓練所には何人か剣を交えているようだ。
「先日は行かなかったが、海沿いには軍事専用の港もあって専門の船があって兵もいる」
「すごいですね」
「陸上では商隊目当ての盗賊の討伐に出たりしている。海の方も貿易船目当ての海賊退治に出ることもめずらしくはないな」
海賊という言葉にちょっと驚く。
「そうなんですか。海賊なんて本の中だけだと思ってました」
田園地帯に差し掛かり、賢者様はいったん馬を停めた。
「あのあたりの低い山では馬や牛の放牧を行っている。羊もいるはずだ。奥の山には鉱山があるし、一部の山では岩塩も産出するが、塩の生産は海辺の方が圧倒的に多いな」
遠くの山々を指差して説明してくれる。目の前には広大な畑が広がり、張り巡らされた水路には豊富な水が流れている。
ふと思ったことを口にする。
「侯爵様の領地だけでほとんどのものが揃ってしまいそうですね」
「ああ、それを目指しているところはあるな。今は長いこと戦もなく、大きな災害も起きてはいないが、いざという時の備えは必要という考えからだな」
その後は金属加工が盛んな集落に立ち寄って農具を作る工房で作業を見学させてもらったり、牧場で子牛にさわらせてもらったりして楽しい1日を過ごした。
侯爵家での最後の夕食もご家族全員が揃ってとてもにぎやかだった。
明日の出発準備を終えてベッドに横になる。
もっとここにいたい気持ちもあるけれど、早く王都に帰りたい気もする。
またいつか来れたらいいな。
次回は2/10(水)に投稿予定です。




