報告
「おや、今日は2人揃っておったか。ミーナ、海辺の旅は楽しかったかの?」
通信の魔道具で鏡の中に現れた魔王様は、いつものように妖艶な笑みを浮かべている。
賢者様はお辞儀をするけれど言葉は発しない。どうやら私に任せてくれるようだ。
「はい、とても楽しかったです。それで、昨夜は浜辺で海王様にお会いいたしました」
「ほぉ?」
魔王様から先ほどまでの笑みが消える。
「魔王様の気を感じたとかで、おそらくこの魔道具に反応したのではないかと」
「なるほど。して、何かあったか?」
「私が魔王様の元にいたことを知った海王様から祝福をいただきました。夜の海に虹が架かって、そこから光の粒が降りそそいだのです。私は身体が温かくなって眠ってしまったのですが、今日になって背中の傷がなくなっていることがわかったのです」
魔王様はしばらく何か考えていたようだったけれど、やがて口を開いた。
「ミーナを拾ってしばらく経った頃、負っていた傷は治したが古傷までは消せなかったことをあれに話したおぼえがある。おそらくそれを覚えていたのであろうな。私にも治癒の力はあるが、向こうの方がはるかに上だ。古い傷を消すくらい容易いことだろうて」
「そうだったんですね」
海王様もすごい方なんだなぁ。
「だが、ミーナ。治癒の力で消せるのは身体の傷だけで、心の傷までは癒せない。傷を受けた時のことを思い出して苦しむことがあるかも知れぬが、1人で抱え込まずに私やそなたの隣におる者も含めてまわりに助けを求めよ。そなたは決して1人ではないのだから」
隣に座る賢者様が私を肩を抱く手に力をこめるのがわかる。
「はい、ありがとうございます」
ふと思い立って魔王様に聞いてみる。
「あの、魔王様。海王様に何かお礼をしたいのですが、お好きなものとかご存じないですか?」
「あれの行いはおそらく私の心の憂いを晴らすためであるから、別に気にすることはないと思うが、強いてあげるとするならば、酒だな」
ニヤッと笑う魔王様。
「お酒…ですか?」
「無類の酒好きだ。しかも、いくら飲んでも酔わんほどに強い」
困ったな。お酒なんて何を選んでいいかわからない。
「お好きなお酒はあるのでしょうか?」
私に代わって賢者様が魔王様に問いかける。
「甘いものはあまり好まぬようだが、他は特にこだわりはなさそうであったの」
「では酒の知識がないミーナに代わって私が見繕いましょう。どうやってお渡しすればよいでしょうか?」
「奴は気まぐれゆえ、捕まえるのは難しいので私が預かろうかの。ああ、そうだ。たまには私の城へ遊びに来るとよい。ミーナも長い時間でなければ問題あるまい。いつでも召喚するゆえ、連絡を寄越すように」
「ありがとうございます!」
魔王様のお子様にも会いたいから早く行きたいなぁ。
「魔王殿、別件でお伺いしたいことがあります」
賢者様が鏡の中の魔王様に話しかける。
「何じゃ?」
「ミーナについてなのですが、何か言語に関する加護か何かをお与えになったことがございますか?先日、書店で複数の外国語の本を読めるということが判明したのですが」
しばらく考えていた魔王様。
「ああ、思い出した。ミーナを拾って間もない頃、看病を任せた辺境出身の魔族の者と言葉が通じぬようだったので与えたおぼえがある。あれが人間の言語にも通用するとは思わなんだが、ミーナにしてみれば幼い頃からそれが普通だったのだから、気付かなかったのもしかたあるまい。どのくらい使えるものか確認はそちらに任せるが、このことはあまりおおっぴらにしない方がよいかもしれぬの」
「どうしてですか?」
いろんな言葉が使えるなら便利そうなのに。
「ミーナ自身がそういう仕事を望む分にはよいが、いいように使われてしまうおそれもあるからな」
その後、少しだけ雑談して魔王様との通信は終わった。
「海王様にお渡しするお酒、どうするんですか?」
気になったので賢者様に聞いてみる。
「いくつか思いつくものはあるが、国王陛下にも相談してみるつもりだ。ミーナの傷跡を消してくれたお礼とあらば秘蔵のものを出してくれるかもしれないな」
次回は2/8(月)に投稿予定です。




