消滅
港町に戻って昨日とは違う屋台で軽く食べる。他にも気になる屋台はあったけど、そんなに食べられないから残念ながらあきらめるしかなさそう。
「さて、もう少ししたら出発するが、追加の買い物とかは大丈夫か?」
「はい、昨日ので十分です」
馬車は侯爵家へ向けて出発する。
「ミーナ、その後は身体の方は問題ないか?」
「はい、なんだか普段よりも調子がいいくらいです」
笑顔でうなずく。
「海は楽しかったか?」
「はい!」
元気に答える。
「いつかまた…一緒に行こうか」
「そうですね」
しばらく旅先での話をしたけれど、帰りの馬車でもまたうとうとしてしまい、気がついたら賢者様に寄りかかっていた。
「ミーナ、着いたぞ」
気がついたらもう侯爵家のお屋敷に到着していた。
「…すみません。私、また眠っちゃいましたね」
「本当に身体はなんともないのか?」
心配そうに顔をのぞきこむ。
「本当に大丈夫ですよ!元気いっぱいです」
ずいぶんと心配されてしまっているようだ。ちょっと申し訳なく思う。
馬車を降りると侯爵家の皆さんに笑顔で出迎えられた。
「おかえりなさい。楽しかった?」
奥様が笑顔で抱きしめてくれる。
「はい!とっても楽しかったです」
「それはよかったわ。まずはお部屋で一休みなさいな」
私専属のメイドさんが駆け寄ってくる。
「あれ、確か昨日と今日はお休みだったんじゃないんですか?」
「私も先ほど実家から戻ってきたところなのです。さぁミーナ様、まずはお部屋へどうぞ」
あっという間に部屋に連れて行かれた。
少し汗でベタベタする感じが気になっていたので、身体を拭いてから着替えたいことを伝えると、メイドさんはすぐに濡れたタオルを用意してくれた。
ワンピースだから1人でも着替えられるけれど、メイドさんが手伝ってくれる。
身体を拭くために上半身の下着も脱いだ時、メイドさんの様子がおかしいことに気付く。
「ミ、ミーナ様、もしかして出かけられた港町で腕のいいお医者様にかかられたのですか?」
「え?お医者様になんて診てもらってないですけど…どうかしましたか?」
なんでお医者様なんだろう?
「ああ、お気づきではなかったんですね。ミーナ様のお背中の傷がすべて消えているんです!」
「え…?」
メイドさんはもはや涙声になっている。
「どんなに目を凝らしても傷がどこにあったかまったくわからないほど、きれいなお背中になっております。いったい何があったのでしょう?」
ああ、そうか。
傷を見た人に聞かれれば、痛みはないと説明していた。でも傷跡と思われるあたりの違和感はよく起きていて、正直あまり気持ちのいいものではなかった。今はその違和感がまったくないから調子がいいと感じたのだろう。
思い当たる原因はただ1つ。
「…教えてくださってありがとうございます。まずはこのことを賢者様にお知らせしたいので、身支度をお願いできますか?」
「かしこまりました」
着替え終わってメイドさんに賢者様のお部屋を訪ねる。
「賢者様、少しお話ししたいことがあるので、お時間をいただいてもよろしいでしょうか?」
「大丈夫だが、お茶でもしながら話そうか」
私達は応接室へ移動し、侯爵家のメイドさんがお茶を出し終えて出て行く。
私は賢者様の向かい側に座っていたけれど、賢者様がポンポンとソファーと軽く叩いたので隣に移動する。
「で、話とは?」
「先ほど着替えようとしたらメイドさんに指摘されたんです。背中の傷が全部なくなってるって」
「え?」
賢者様がものすごく驚いた表情になる。
「考えられるのって昨夜のことくらいしかないですよね?」
「そうだな…さすがに私が確認するわけにはいかないが、間違いないんだな?」
「はい」
メイドさんが鏡を持ってきてくれて、合わせ鏡で私自身も確認している。
賢者様が私の肩を抱き寄せる。
「傷がなくなったことはよかったとは思うが、魔王殿に確認した方がよさそうだな」
「そう思って通信の魔道具を持ってきました」
首からさげていた指輪サイズの通信の魔道具をはずし、チェーンを取ると手のひらサイズに戻った。
暖炉の上にある大きな鏡につけて話しかけると、鏡の中に魔王様が現れた。
次回は2/6(土)に投稿予定です。




