家族
朝食を終えてから侯爵様と奥様とともに宿を出発し、お2人の領地のお屋敷へと向かう。
馬車から見える景色はずっと平坦な地形が続く。
「このあたりはもううちの領地だな。穀倉地帯で収穫したもののほとんどは王都へ送られる」
侯爵様が説明してくれる。
農作業をしている人達は馬車の紋章で侯爵家と気づくようで、大人達は作業の手を止めて一礼し、子供達も笑顔で手を振ってくれるので、侯爵様や奥様も笑顔で手を振って応える。きっといい関係ができているのだろう。
「なんだか暮らしやすそうな土地ですね」
ポロッとこぼしたら、侯爵様と奥様が笑顔になった。
「ありがとう。そう言ってもらえるととても嬉しいわ」
途中の小さな町で休憩を兼ねて軽食を取り、いよいよ侯爵様のお屋敷がある街に入る。思っていたよりも大きな街で驚く。街というより都市といっていいくらいだ。
「お店とかたくさんあるんですね」
「王都以外では最大級といっていいかもしれないわね。ここは昔から商業が盛んなのよ」
私が馬車の窓から通りを見ていると奥様が説明してくれた。
「我が家は街の中心部を通り抜けたもう少し先にある」
侯爵様も教えてくれた。
やがて町並みが途切れ、木々が増えてきた頃、大きなお屋敷が見えてきた。王都の賢者様のお屋敷よりはるかに大きい。
「はい、着いたわよ」
侯爵様が先に馬車を降り、奥様の手を取って降ろす。
「さぁ、ミーナもどうぞ」
続いて私にも笑顔で手を差し出されたので、おずおずと手を添えて馬車から降りた。
「お帰りなさい!」
屋敷の前では夫婦らしき若い男女と小さい男の子が笑顔で待っていた。
「ミーナ、紹介しよう。うちの長男一家だ。来年には爵位を譲る予定になっている」
賢者様のお兄様とその家族であるらしい。
「ようこそ、ウィルヘルミナ嬢。自分の家と思ってゆったり過ごしていただければと思います」
賢者様より少し年上の男性はそう言って出迎えてくれた。ご長男の奥様とも挨拶をしたが、小さな息子さんは見知らぬ私が怖いのか奥様の後ろに隠れてこちらをのぞきこんでいる。
「お世話になります。どうぞミーナとお呼びください。それからあまり堅苦しいのはまだ慣れていないので、出来ましたらくだけた口調でお願いいたします」
そう言って頭を下げる。
「ミーナは客人だが、家族の一員として接してほしい」
侯爵様がご家族や使用人の方々に告げる。
「ではミーナ、部屋へ案内しよう」
侯爵様のご長男は微笑んだ表情が少し賢者様に似ていた。
通された客室は明るくて広いお部屋だった。隣は私専属のメイドさんの部屋になっているので少し安心する。
この日はゆっくりと過ごし、夕食は侯爵様ご一家とともにテーブルに着いた。
「この屋敷では貴族流の晩餐は来客があった時くらいで、通常はこの領地流の食事スタイルだから、どうか気楽に楽しんで欲しい」
それぞれの席に料理もあるが、テーブルの中央には大皿料理がいくつか並ぶ。好きなものを取る方式らしい。
奥様やご長男の奥様が料理の説明をしてくれたので、まずは一通り少しずつ食べて気に入ったものをおかわりした。
それぞれが話しながら和やかに食事は進む。小さい子がいるのでなおさら明るく感じるのかもしれない。
私にもあれこれ話しかけたりしてくれる。
普通の家族ってこういうものなのかもしれないな、と思った。
次回は1/25(月)に投稿予定です。




