賢者side:想い
ミーナが私の両親とともに一足先に領地へと向かった。
今頃は我が家がいつも利用しているあの宿で眠りについていることだろう。
ミーナには話していなかったが、彼女が建国祭の準備で王宮へ通っている間に両親とは何度か話し合った。両親からは国王陛下がミーナを王家でいったん引き取って、その後うちの両親に預けようとしていたことも聞かされた。私からの求婚のこともすでに陛下から聞いていたそうだ。
「それにしても貴方って昔から女性というよりそもそも他人にあんまり興味がないのかと思ってたけど、年下の女の子に入れ込むなんてちょっと意外よねぇ」
母から笑顔で茶化すように言われた。
確かに子供の頃から家で1人で本を読んだり実験したり、野外でも動植物の観察などをしていて、誰かと遊ぶことはあまりなかった。同世代の子供と一緒にいても少しも面白いと思えなかったのが一番大きいが。
「私達はまだお会いしていないからわからないんだけれど、貴方のお眼鏡にかなったお嬢さんってどんな方なのかしら?」
「年のわりにはしっかりした真っ直ぐな子ですよ」
今日ミーナと一緒に旅をした両親は、はたして彼女のことをどう思っただろうか?反対されたところで求婚を撤回する気はないのだが。
だが正直なところ、なぜミーナなのかと問われても、いくら考えても自分の中で答えが見つからずにいる。やはりこういうものは理屈で片付くものではないのだろう。
ミーナは建国祭まで聖女の世話係として動いていた。
「ちょっと忙しい時もあったけど、やっぱりお仕事していると楽しいです」
令嬢として育っていない彼女は働いている方が自然なのだろう。
今は王宮で学ばせているが、もし自分自身のやりたいことが見つかったのなら出来る限り支援するつもりだ。
ミーナが屋敷にいない夜、勇者と2人で酒を酌み交わす。
「ミーナを侯爵達と行かせること、よく認めたねぇ」
「建国祭が終わったら旅行を兼ねて連れて行くつもりではあったから了承した」
「へぇ、そうなんだ?」
少し驚いたような表情をする勇者。
「領地で連れて行きたいところもあったし、こちらの都合で彼女の選択肢を狭めたくはないからな」
「あいかわらず真面目だねぇ。ずっと彼女のことを見てたくせに。俺だったら誰にも手出しできないよう囲いこんじゃうけど」
「それはしたくない。彼女の可能性をつぶしたくはないんだ」
勇者があきれた表情になる。
「なんでわざわざ難しい道を選ぶかねぇ?ま、困難を乗り越えた方が得られた時の喜びも大きいだろうから、せいぜいがんばればいいさ」
勇者にグラスを差し出されたので、カチンと合わせて一気にあおった。
就寝のため自室に戻ってふと思う。
ミーナは以前は表情は乏しかったが、いろんな人と接するようになって少しずつではあるが年頃の少女らしく表情豊かになってきているように思う。
その変化は嬉しいようで不安にもなる。
籠の中に閉じ込めて誰の目にも触れさせずに独り占めしたい気持ちと、翼を羽ばたかせて自由に大空を舞う姿を愛でたい気持ち。
前者の気持ちは彼女の心を得るまでは押し殺すことを自ら決めたのだから、それだけは守らねばならない。
「難しいものだな」
思わず独り言がこぼれ出た。
次回は1/23(土)に投稿予定です。




