旅の途中
「改めて聞くけれど、うちの息子のことはどう思っているのかしら?」
奥様に問われて少し考える。
「それが…よくわからないんです」
「少なくとも嫌いではない?」
そう言って隣に座る奥様が私の顔をのぞき込む。
「はい。いつも私を気遣ってくださいますし、何度か助けていただいたりもしました。お話しする時もいつもやさしいので、人として好きだとは思います。だけど、異性としてどうかと聞かれると正直わからないんです。それに『まずは家族として暮らそう』とおっしゃってくださいましたが、私は家族というものもわかっていないですし…」
「そう難しく考える必要はないと思うが」
向かい側に座る侯爵様が私を見てやさしく語りかけてきた。
「相手も自分もさまざまな感情があるので、当然のことながら理屈では片付かない部分も出てくる。今はわからなくても、一緒にいるうちに知ることもある。気構えずに自然でいればいい。無理のある関係は続かないからな」
その言葉がストンと胸に落ちてきて私はうなずいた。
「ところで、これからは貴女のことは私も妻も家族として接したいと思うのだが、よいだろうか?」
「もちろんです!どうぞよろしくお願いいたします」
笑顔で答える。
「ありがとう、ミーナ」
侯爵様が手を伸ばして私の頭をなでてくれた。
「でも、考えてみたら私は幸せですね」
侯爵様と奥様が不思議そうな顔をする。
「これまでにいろんな方が私のことを『家族と思っている』と言ってくださったんです。それって家族がたくさんってことですよね?」
お2人が笑顔になった。
「そうね。それはね、きっとミーナちゃんが素敵な子だからだわ」
奥様が私の肩を抱き寄せる。
「私が素敵…ですか?」
「会ってまだ間もないけれど私にもわかるわ。ミーナちゃん、いい目をしてるもの」
「目、ですか?」
小首を傾げると向かいに座る侯爵様が言う。
「そうだな。昔から『目は口ほどに物を言う』と言われていて、最も素直にその人の心情が表れる。もし気になる相手がいるなら、その目をよく見てみるといい」
なるほど、目か。これから注意して見てみよう。
「そろそろ次の街が見えてきたわ、そこで昼食にしましょうね」
昼食はその土地の名物料理をいただき、旅はさらに進んで侯爵様達がいつも利用しているという高級そうな宿で一泊する。
私は専属のメイドと同室になった。考えてみたら彼女と同じ部屋で眠るのは初めてで、眠る前にお屋敷のことや彼女の故郷の話などあれこれ話した。眠るのがもったいないと思うくらい、とても楽しい時間を過ごすことができた。
次回は1/21(木)に投稿予定です。




