旅の始まり
旅行当日。
普段より早めに起こされて朝食を取り、身支度を整えられる。
勇者様は私の護衛として賢者様のお屋敷にいるけれど、今回の旅行には同行しない。
「賢者の実家の侯爵家って代々武人を輩出している家柄でさ、俺が護衛として行っちゃうと向こうさんの実力を信用してないとか思われちゃうんだよねぇ」
そんなことをこぼしていたが、いろいろと事情があるらしい。そんなわけで私と一緒に行くのは専属のメイドさんのみということになった。
迎えの馬車が到着し、降りてきたのは昨日お会いした賢者様のお母様と今日初めてお会いする男性。
「ミーナちゃん、紹介するわね。私の夫で、あの子の父親よ」
そう言いながら賢者様を指差す。
言われてみればなんとなく似ている気がする…いや、それより侯爵様ってことだよね?
「初めまして、ウィルヘルミナ嬢。貴女の事情はうちの息子と国王陛下からうかがっています」
手を差し出されたので、握手だなと思ってこちらも手を差し出したら、手の甲にキスを落とされてびっくりする。
「うちの領地は田舎ですが、温暖な気候で王都にはないものもたくさんあるので、ぜひ楽しんでいただければと思います。それから、私もミーナ嬢とお呼びしてもよいでしょうか?」
「もちろんでございます、侯爵様。どうぞよろしくお願いいたします」
賢者様と勇者様、そしてお屋敷の皆さんに見送られて馬車は動き出す。
この馬車には侯爵様と奥様、奥様の侍女さんと私の4人。私専属のメイドさんは別の馬車に乗っている。
聞いた話では途中の街で一泊するらしい。
「ミーナちゃん、王都での生活にはもう慣れたかしら?」
「はい。皆さん親切にして下さるおかげでだいぶ慣れました」
しばらくは私の暮らしぶりについて話したりしていたのだが、やがて私の両親の話になった。
「貴女のお父様はね、お母様の護衛騎士だったの。騎士団の剣術大会では連続優勝するほどの腕前で、控えめで穏やかな性格の人だったわ。確か10才差だったわね」
「そうなんですか?」
私と賢者様の年の差と一緒なんだ。
「積極的だったのはお母様の方だったそうよ。お父様は身分差を考えて断り続けていたけれど、結局押し切られちゃったの。結婚後しばらくは静かに暮らしたいということで、王都を離れてうちの領地にいらしてたわ。だからミーナちゃんはうちの領地で生まれて、私が抱っこしたってわけ」
それは知らなかった。
「一家で王都に戻られたのは貴女が3歳くらいの頃だったかしらね。さすがに覚えていないでしょうけど、ある意味うちの領地は貴女の故郷とも言えるかもしれないわね」
「そうだったんですか」
ふと会話が途切れた時に奥様が聞いてきた。
「あの、ミーナちゃん。うちの息子が貴女に求婚したのよね?」
いつかは来るだろうとは思ってたけど、とうとうその話になったか。
「あ、はい、そうなんです」
「あの子からは手紙をもらってたし、ちょうど建国祭のために王都に来たから直接話して気持ちは聞いたの。それで貴女はうちの息子のことをどう思っているのかしら?」
しばらく考えて口を開く。
「あの、その前に侯爵様と奥様は私のことをどこまでご存知なのでしょうか?」
「まず、今回の旅行は急に決まったことではない」
そう言ったのは侯爵様だった。
「貴女の素性が判明してすぐ、まだ勇者パーティが魔王城に向けて2度目の旅をしていた頃、国王陛下から直接聞かされた。どこで育ったかももちろん聞いている」
「そうなんですか」
どうやら隠し事はなしでいいらしい。
「当初、陛下はいったん王家で引き取るけれど、貴女の両親と縁のあったうちの領地で暮らすのはどうかとおっしゃったのだ。うちの領地なら王都からもそう離れてはいないし、おおらかな土地柄だからのびのび過ごせるだろうとお考えになってのことだろう」
それは初耳だ。陛下はそんなことまで考えてくださっていたのか。
「実は領地の屋敷では貴女のお部屋の準備も進めていたのよ」
奥様も笑顔で話す。
「ところが魔王城から戻ったうちの息子は貴女を預かると言い出した。さらに求婚して仮の婚約者となったことで、貴女は王都に留まることになった。だが、せっかくだからうちの領地もぜひ見てほしいと息子に話し、今回の旅行が決まったのだ」
次回は1/19(火)に投稿予定です。




