鏡の中
王宮では聖女様の世話係という立ち位置で出入りするので普段はメイド服でかまわないけれど、ダンスの授業の際は王宮で着替えることが説明された。
ダンス練習用の服を用意するとのことで、引き続き打ち合わせを行う聖女様達と別れて衣装担当者がいるという採寸部屋へと連れて行かれた。
「この王宮で若い女性の衣装は久しぶりなので、みんなとても喜んでいるのですよ」
にこやかな衣装担当者達に囲まれて採寸が始まる。
だが、メイド服が脱がされると衣装担当者達の表情がみるみる曇っていく。
なんでだろう?と不思議に思っていると、鏡の中の鏡に映る自分の後ろ姿に気がついた。
下着で隠れている部分が多いとはいえ、背中の傷を自分でも見るのは初めてだった。
ああ、そうか。こんなことになってたんだ。
魔王城でも、おそらく賢者様の家でも、私が傷を見なくてすむように気を使われていたのだろう。今になってそんなことに気付く。
今はもう背中の傷が痛むことはないけれど、この傷がみんなの心を傷つけてしまっていたのかもしれない。そのことに関しては心が痛んだ。
しばらく言葉をなくして動けずにいた衣装担当者達だったが、私の表情に気付いた責任者の女性が肩にふわっとタオルをかけてくれた。
「あの…驚かせてしまってごめんなさい。別に痛くはないんですよ?」
私は取り急ぎ謝る。
「いいえ。こちらこそ配慮が足りず、大変申し訳ございませんでした」
責任者の女性が深々と頭を下げた。
「いえ、あの、そんな気になさらないでください」
「お詫びといってはなんですが、誰もがうらやむようなウィルヘルミナ様によく似合う衣装を我々がお作りいたします。どうか楽しみにしていてくださいましね」
責任者の笑顔に釣られて私も笑顔で答える。
「はい、よろしくお願いいたします」
採寸作業の合間に好きな色や好きな花などいろんなことを聞かれる。デザインの参考にするのだろうか。
服に関する要望も聞かれたので、『とにかく動きやすいものがいい』と答えてしまったけど、あれでよかったのかな?
一通り採寸が終わってから、迎えが来るまで生地のサンプルや過去のデザイン画などを見せてもらったり、実際に服を作っているところも見学させてもらった。
分野を問わず仕事の現場を見るのは好きだ。魔王城でもいろんな部署を見せてもらい、話を聞いたりして、実際に手伝ったりしたこともある。
本当は魔王城にいた時のように、何か手や身体を動かす仕事がしたかった。だけど、今のこの状況では難しいんだろうなぁ。
やがて迎えが来て聖女様のところへ戻る途中、渡り廊下から騎士団の訓練場が見えた。
ちょっと離れたあたりで勇者様が騎士団の皆さんに剣の稽古をつけているようだ。
「おーい!がんばれよ!」
勇者様がこちらに気づいて手を大きく振ってくれたので、私も笑顔で小さく手を振って応えた。
なぜか騎士の方々から野太い歓声が上がってたけど、何かあったのかなぁ…?
次回は1/9(土)に投稿予定です。




