驚く少女
話し合いの機会は思いのほか早く訪れた。
王家のプライベートエリアにある談話室には国王陛下と王太子殿下、私とミーナが揃った。聖女と勇者は来ていないが、後日報告することにしてある。
ミーナが魔王に連絡を取った際に国王陛下が実母の兄であることはすでに説明済なので、話はそう長引くことはないだろう。
ミーナが魔王からもらった通信の魔道具を暖炉の上にある大きな鏡に近づけると、その鏡の中に魔王の姿が映し出され、国王陛下と王太子殿下が思わず息を飲んだ。
「こんなに美しい女性だとは思わなかった」
国王陛下のつぶやきは向こうにも聞こえていたようで、妖艶な笑みを浮かべて答える。
『お褒めいただき感謝する』
「まず魔王殿に謝罪したい。魔王討伐を言い出したのは邪教に命を奪われた我が妹とその家族の敵討ちのつもりだった。しかし邪教は魔王殿や魔界とは何の関わりもないと判明した。本当に申し訳なかった」
国王陛下が立ち上がって鏡の中の魔王に頭を下げる。
『かまわぬ。こちらはたいした実害もなかったことだしの』
「今後は友好的な関係を築いていければと考えている」
『ミーナがそちらで穏やかに暮らしていけるのならば、な』
魔王は真顔で答える。
「ウィルヘルミナは我が妹の娘。出来る限りのことはさせてもうつもりだ」
陛下が再び座ったのを確認し、私は小さく挙手する。
「国王陛下ならびに魔王殿、発言をお許しいただけますでしょうか?」
国王陛下と鏡の中の魔王がうなずく。
さて、ここからが勝負だ。
「国王陛下と魔王殿が揃ったこの場にてお願いしたいことがございます。ミーナことウィルヘルミナ嬢と私の婚姻を認めていただけませんでしょうか?」
「「 は? 」」
国王陛下と王太子殿下が同時に驚きの声を上げた。
ミーナも驚いているが声もでないようだ。
それはそうだろう。まだ何も告げてはいないのだから。
『ははははは!』
しばらくの沈黙の後、鏡の中の魔王が笑い出した。
『そなた、このためだけに魔王たる私を呼び出したか?』
「大変申し訳ありませんが、そのとおりです」
私は鏡に向かって頭を下げる。
『これは愉快。ミーナさえよければ私はかまわぬぞ。そなたならばミーナを任せられそうだしの。さて、私は子の世話に戻るゆえ、後はそちらに任せる。ミーナ、また日を改めてゆっくりと話そうぞ』
鏡の中の魔王は笑顔を残して消えた。
「さて、改めて話を聞こうか」
国王陛下がこちらを向く。
「まず、今後をミーナ自身の意志に任せるとはいえ、国王陛下の姪という立場は王家とつながりを持ちたい者にとって魅力的な存在となり、さまざまな問題の引き金になりえます。ですが、賢者という人間界において特別な存在の庇護下であれば、それらを避けることが出来うると考えます」
「うむ」
陛下がうなずく。
「そして何よりもともに旅をして彼女の聡明さ、そして真っ直ぐな強さを知り、これからも私の手で守りたいと思っております」
しばらくの沈黙の後、王太子殿下がミーナの方を向く。
「それでミーナちゃんはどうなの?」
「そんなこと急に言われても…わからないです」
とまどうミーナ。
「じゃあさ、好きはどうかはおいといて、とりあえず嫌いではない?」
こくんとうなずくミーナ。
国王陛下が思案の末に口を開いた。
「そなたの言うとおり、私の姪という立場はなかなかに難しいものであることはわかる。そなたが防波堤として適しているのも正しい意見ではあると思う」
王太子殿下も小さくうなずく。
「だが、ウィルヘルミナはまだ15歳と半年。長年の魔界暮らしでまだこちらには慣れていない。ゆえにあくまで仮婚約としてそなたの屋敷で暮らし、その間にさまざまなことを学んで18歳の誕生日に改めて自ら選ばせる、ということでどうかの?もちろん仮婚約の間は手を出すことはまかりならぬがな」
「はい、それでかまいません」
私がうなずくと王太子殿下が挙手して発言する。
「あのさ、勉学はそっちが適しているだろうからおまかせするけど、淑女教育はこちらに任せてもらえないかな?講師も一流どころを用意できるし、ミーナちゃんに王宮へ来てもらって慣れてほしいからね」
「了承した」
本当はあまり王宮へは行かせたくはないのだが、しかたあるまい。
王太子殿下がミーナに話しかける。
「ミーナちゃん、これからいろいろ学んで、見聞を広めてから将来を決めていいんだからね。きっといろんな人と出会うだろうから、別に無理してこいつを選ぶ必要なんかないんだよ。ほら、年齢だって10歳も離れてるんだしさ」
その言葉にちょっとムッとする。
「お前と想い人のことを結び付けてやったのに、私のことは邪魔する気か?」
「感謝はしてるけど、それとこれとは別だよ。だってミーナちゃんは僕の大事な従妹だからね」




