再会する少女
ミーナに乗り移った魔王と話した翌日、隙を見て聖女と勇者に内容を簡潔に伝えた。
通信の術具を使って王太子殿下に連絡を取ろうとしたが、どういう事情かなかなか繋がらなかった。旅も進んで、はるかかなたに魔王城が見えるようになった頃、ようやく通信の術具が繋がってなんとか情報交換することが出来た。
こちらからは邪教と北の辺境の村のことを伝え、向こうからはミーナの身元が判明したとの知らせがあった。両親はすでに亡くなっているとのことだった。
ミーナに何をどう伝えるか、どのタイミングで伝えるべきか迷っている間に我々は魔王城に到着していた。
「約束どおり拘束の術具を外そう」
魔王城に入る前でミーナの足首にある拘束の術具をはずした。ここが彼女の旅の終着点なのだから。
不自然なくらい誰もいない静かな廊下を進んでいくと、謁見の間の大きな扉がゆっくりと開いていく。
暗い廊下からまぶしいほどに明るい謁見の間を見ると、その奥に人影が見えた。
「魔王様っ!!」
ミーナが叫びながら走りだす。
その先にいたのは、黒く大きな角のある、赤く光る眼をした妖艶な女性。真紅のドレスに身を包んでいる。
両手を広げ、走ってきたミーナを受け止めて抱きしめる。
「え、あれが魔王なの…?」
「うわ、俺めっちゃ好みなんだけど」
聖女と勇者がつぶやくが、勇者の感想はどうかと思う。
そしてミーナの一番大事な人物である魔王に対し、ひそかに嫉妬心を抱いていた私は声も出なかった。
よく見ると魔王のそばに控える侍女らしき女性は、何かを包んだ布を腕に抱えている。
「魔王様、ご出産おめでとうございます!うわぁ、とってもかわいいですね」
駆け寄ったミーナはすやすやと眠る赤ん坊の顔をのぞきこむ。
「女の子じゃ。皆、我に似ていると申しておるな」
「ふふふ、本当ですね。よく似てらっしゃいます」
満面の笑みのミーナ。
「惜しいなぁ、人妻かよ」
いや、だから勇者の感想はさすがにおかしいと思うのだが。
「ミーナ、本当にすまなかった。1人きりで取り残されて、さぞつらかったであろう」
せつなそうな表情の魔王がミーナの髪をなでる。
「いいえ、私こそちゃんとついていけずに申し訳ありませんでした。それに勇者パーティの皆さんがよくしてくれましたし、魔王城の外の世界でいろんな経験も出来ましたよ」
笑顔で答えるミーナ。
魔王は我々の方を見る。
「人間の勇者パーティの者達よ。ミーナを保護し、無事に連れてきてくれたこと、ここに感謝する」
ミーナから少しだけ離れ、我々に頭を下げる魔王。
「先日は遠路はるばる参ったにも関わらず、何の相手も出来ずにすまなかった。あの時は急に産気づいてしまっての。急遽転移を使ってしまったのじゃ。おかげで無事に我が子を腕に抱くことができた。さて、本日はきちんと用件を聞くぞ。ただ、やりあうのなら城を汚したくはないので外で頼みたいがな」
不敵で妖艶な笑みを浮かべる魔王。
私は一歩前に出る。
「我が主の命を受け魔王討伐に参ったが、それは人間界に害があると判断した場合との条件がついている。我が主が求めるのは魔界などではなく、あくまで人間界の平和である」
魔王は黙って聞いている。
「ここで改めて問いたい。10年ほど前まで人間界の各地で蔓延っていた魔王を崇めていた邪教は本当に魔界や魔王とは無縁であるか?」
「私が名を騙られた怒りで殲滅したので今となっては証明する手段はないが、関わりは皆無であると誓おう」
魔王は軽く手を上げた。
さらに魔王に問いかける。
「今後、人間界に手を出す気があるか?」
「人間などその気になれば一瞬で消滅させることもできるし、征服することも容易いであろうな。だが、そちらが手を出してこなければ、こちらとて動く気はない。私は忙しいし、何より面倒ごとは嫌いでの。そちらはそちらで好きにするがよい」
ニヤリと笑う魔王。
「その旨、しかと了承した。その言葉が守られる限り、我が主は今後魔王討伐に動くことはないだろう。次にミーナに関して話がしたい」
魔王の表情から笑いが消える。
「人間界にいる者に調査を依頼していたのだが、先日報告があって身元が判明した。両親は彼女が攫われた際に殺害されていたが、親族がぜひ会って話がしたいと言っている。できることなら引き取りたいが、あくまで本人の意志を尊重するとのことだ。再び人間界に連れて行きたいのだが、どうだろうか?」
こちらをじっと見ていたミーナは魔王に視線を移す。
「ミーナ、行ってくるがよい。その気になればいつでもここへ戻ってこられる方法を用意した。この機にそなたは魔界と人間界の両方の世界を知るとよい」
しばらく黙っていたミーナが決意を固め、口を開く。
「わかりました、魔王様。私、行ってまいります」
魔王は頭をなでた後、ミーナに小箱を渡した。
「それでこそ我がいとし子。では送ってやるとするか。また会おうぞ!」
魔王が片手を高く掲げるとまばゆい光があたりを包み、我々勇者パーティとミーナは我が家の庭に戻ってきていた。




